全 情 報

ID番号 05207
事件名 遺族補償給付葬祭料不支給決定処分取消請求事件
いわゆる事件名 加古川労基署長(中谷山金属)事件
争点
事案概要  会社構内の宿直棟に居住していた代表取締役の実子が、同じく会社構内に居住する精神障害者である実兄により刺殺された事故につき、業務起因性が争われた事例。
参照法条 労働基準法79条
体系項目 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 暴行・傷害・殺害
裁判年月日 1989年1月26日
裁判所名 神戸地
裁判形式 判決
事件番号 昭和61年 (行ウ) 23 
裁判結果 棄却(控訴)
出典 タイムズ699号199頁/労働判例535号73頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-暴行・傷害・殺害〕
 右の事実によれば、Aは会社の業務命令により、報酬を得て、会社構内の宿直棟に居住しながら、終業後の夕方から翌朝の始業までの宿直業務にも従事していたもので、本件災害当夜も右業務に従事していて本件災害にあったものであるから、業務遂行性は認められる。そして、特にBとの兄弟関係が悪かったという事情はなく、本件災害がBの精神状態が非常に不安定で、かつ飲酒したうえでの暴行によるものであったことからすれば、会社工場建物等の破壊行為をしていた者がたまたまAの実兄であったからといって、このことから、直ちに業務起因性を欠くものとはいえない。しかし、AはCから盗難、強盗の際にはCに連絡するか、あるいは官憲の援助を求めるにとどめ、自衛行為に出ないよう指示されており、現実に以前挙動不審者を工場内で発見したときには、直ちに警察に通報したにもかかわらず、本件災害時においては、会社工場内で暴れているのがBであることを認識していたため、水道用タンクの設備が破壊されているのを発見しながら、警察に通報せず、Bの行動を制止することもしないで放置し、入浴を済ませてからCに連絡するにとどめ、軽装のまま屋外に出ていること、AはCからBの監護の依頼を受けてなかったものの、従前からBに話しかけるなどし、特にBの病状が悪化してきた同五六年二月ころからは、原告に対し、子供をBに近づけないよう指示するなど、Bに注意を払ってきたことなどからすれば、本件災害は、AがBに対する肉身の情から、通常の警備業務中に会社工場施設の破壊行為者を発見したなら取るべきである行動を取らなかったために発生したものであって、通常の宿直勤務及び警備業務に随伴又は内在する危険が発生したことによるものではないというべきであるから、業務起因性を欠くものというほかない。したがって、本件災害は業務上の災害には当たらない。