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ID番号 05213
事件名 損害賠償請求上告事件
いわゆる事件名 高田建設従業員事件
争点
事案概要  第三者の行為によって生じた労働災害につき損害賠償が行なわれたケースで、被災労働者に過失がある場合に過失相殺と労災保険給付の控除の先後が争われた事例。
参照法条 労働者災害補償保険法12条の4
民法722条
体系項目 労災補償・労災保険 / 損害賠償等との関係 / 労災保険と損害賠償
裁判年月日 1989年4月11日
裁判所名 最高三小
裁判形式 判決
事件番号 昭和63年 (オ) 462 
裁判結果 棄却
出典 民集43巻4号209頁/時報1312号97頁/タイムズ697号186頁/交通民集22巻2号255頁/金融商事828号40頁/裁判所時報1001号1頁/労働判例546号16頁/労経速報1374号12頁
審級関係 控訴審/大阪高/昭62.12.16/昭和62年(ネ)324号
評釈論文 下森定・社会保障判例百選<第2版>〔別冊ジュリスト113〕152~153頁1991年10月/加藤了・交通事故判例百選<第4版>〔別冊ジュリスト152〕158~159頁1999年9月/古賀哲夫・法律時報62巻4号102~105頁1990年4月/山田誠一・社会保障判例百選<第3版>〔別冊ジュリスト153〕144~145頁2000年3月/山本哲生・法学〔東北大学〕56巻1号91~96頁1992年4月/小川賢一・賃金と社会保障1046号59~65頁1990年11月25日/瀬戸正義・法曹時報41巻9号278~296
判決理由 〔労災補償・労災保険-損害賠償等との関係-労災保険と損害賠償〕
 労働者災害補償保険法(以下「法」という。)に基づく保険給付の原因となった事故が第三者の行為により惹起され、第三者が右行為によって生じた損害につき賠償責任を負う場合において、右事故により被害を受けた労働者に過失があるため損害賠償額を定めるにつきこれを一定の割合で斟酌すべきときは、保険給付の原因となった事由と同一の事由による損害の賠償額を算定するには、右損害の額から過失割合による減額をし、その残額から右保険給付の価額を控除する方法によるのが相当である(最高裁昭和五一年(オ)第一〇八九号同五五年一二月一八日第一小法廷判決・民集三四巻七号八八八頁参照)。けだし、法一二条の四は、事故が第三者の行為によって生じた場合において、受給権者に対し、政府が先に保険給付をしたときは、受給権者の第三者に対する損害賠償請求権は右給付の価額の限度で当然国に移転し(一項)、第三者が先に損害賠償をしたときは、政府はその価額の限度で保険給付をしないことができると定め(二項)、受給権者に対する第三者の損害賠償義務と政府の保険給付義務とが相互補完の関係にあり、同一の事由による損害の二重填補を認めるものではない趣旨を明らかにしているのであって、政府が保険給付をしたときは、右保険給付の原因となった事由と同一の事由については、受給権者が第三者に対して取得した損害賠償請求権は、右給付の価額の限度において国に移転する結果減縮すると解されるところ(最高裁昭和五〇年(オ)第四三一号同五二年五月二七日第三小法廷判決・民集三一巻三号四二七頁、同五〇年(オ)第六二一号同五二年一〇月二五日第三小法廷判決・民集三一巻六号八三六頁参照)、損害賠償額を定めるにつき労働者の過失を斟酌すべき場合には、受給権者は第三者に対し右過失を斟酌して定められた額の損害賠償請求権を有するにすぎないので、同条一項により国に移転するとされる損害賠償請求権も過失を斟酌した後のそれを意味すると解するのが、文理上自然であり、右規定の趣旨にそうものといえるからである。右と同旨の原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。