全 情 報

ID番号 05217
事件名 休業補償給付不支給処分取消請求事件
いわゆる事件名 仙台労基署長(森勇建設)事件
争点
事案概要  建設会社に勤務していた労働者が作業中新築家屋の梁から落ちた後、くも膜下出血を発症したことにつき業務に起因するか否かが争われた事例。
参照法条 労働者災害補償保険法7条1項
労働者災害補償保険法13条
労働基準法75条
労働基準法76条
体系項目 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 脳・心疾患等
裁判年月日 1989年9月25日
裁判所名 仙台地
裁判形式 判決
事件番号 昭和62年 (行ウ) 3 
裁判結果 棄却
出典 労働判例551号63頁/労経速報1383号21頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-脳・心疾患等〕
 (六) 右認定事実及び1(一)において認定した事実を前提として、前記(四)の(1)に即して事故当時Aが行なっていた作業が異例の血圧上昇をきたすほどに肉体的、精神的に過激なものであったかについて検討するに、Aは高所作業に慣れていたこと、掛矢で梁を叩く作業は建築作業員として日常的な作業であることなどから、当該作業がそれほど過激なものであったとは認めることができない。
 (七) 次に前記(四)の(2)に即して検討するに、右認定事実によれば、Aの身体の不調は脳動脈瘤破裂の前駆症状であったか(脳動脈瘤は、軽度の破裂発作の後、頭痛など身体の不調を訴え、風邪と思って放置していて後に大発作を起こすという経過を辿ることが珍しくないこととされており、Aの場合も三月二七日ころ、既に軽度の発作を起こしていた疑いがある)あるいは、脳動脈瘤破裂の誘因たる症状であったものか(しかし、脳動脈瘤破裂は普通はまえぶれなく起こると言われている)明らかではないが、脳動脈瘤破裂との関連性は否定できないものと思われ、あらかじめ医師の診察を受けておれば、くも膜下出血の大発作の事態は避けられた可能性が高い。しかしながら、前記のとおり、Aら作業員は欠勤が事実上も制約されていたとは認められず、Aの担当していた業務は、高所における作業ではあるが、他の作業員が代替することは可能であったと考えられ、実際、三月の二三日と二四日には、Aは欠勤しているのであって、(証拠略)、Aが休養して医師の診察を受けようとすれば、それは十分に可能であったと認められる。
 なお、原告本人尋問の結果によれば、Aが身体の不調を押して出勤し続けた理由として、給料の前借りを返済しなければという気持があったことも認められるが、それは業務外の事情であって、しかも、金額は一〇万円で、無利息の貸借であった(証拠略)というのであるから、Aにとってそれがそれほど大きな心理的負担となっていたものとは認められず、右認定を左右するものではない。
 (八) したがって、Aのくも膜下出血は、業務に起因することの明らかな疾病と言うことはできない。