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ID番号 05253
事件名 雇用契約存続確認請求控訴事件
いわゆる事件名 千代田工業事件
争点
事案概要  労働契約に期間の定めがあるか否かにつき、当初は求人票記載内容からみて期間の定めのないものであったが、その締結された労働契約において期間の定めのある労働契約に変更されているとして、期間満了により労働契約が消滅したとされた事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法14条
労働基準法15条
職業安定法18条
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約の期間
労働契約(民事) / 労働条件明示
裁判年月日 1990年3月8日
裁判所名 大阪高
裁判形式 判決
事件番号 昭和63年 (ネ) 644 
裁判結果 棄却・取消(上告)
出典 タイムズ737号141頁/労働判例575号59頁/労経速報1419号5頁
審級関係 一審/03947/大阪地/昭63. 3.28/昭和58年(ワ)8048号
評釈論文 松尾邦之・労働法律旬報1262号33頁1991年4月25日/唐津博・民商法雑誌107巻1号157~167頁1992年10月
判決理由 〔労働契約-労働契約の期間〕
〔労働契約-労働条件明示〕
 (一) 職業安定法一八条は、求人者は求人の申込みに当たり公共職業安定所に対し、その従事すべき業務の内容及び賃金、労働時間その他の労働条件を明示すべき義務を定めているが、その趣旨とするところは、積極的には、求人者に対し真実の労働条件の提示を義務付けることにより、公共職業安定所を介して求職者に対し真実の労働条件を認識させたうえ、ほかの求人との比較考量をしていずれの求人に応募するかの選択の機会を与えることにあり、消極的には、求人者が現実の労働条件と異なる好条件を餌にして雇用契約を締結し、それを信じた労働者を予期に反する悪条件で労働を強いたりするなどの弊害を防止し、もって職業の安定などを図らんとするものである。かくの如き求人票の真実性、重要性、公共性等からして、求職者は当然求人票記載の労働条件が雇用契約の内容になるものと考えるし、通常求人者も求人票に記載した労働条件が雇用契約の内容になることを前提としていることに鑑みるならば、求人票記載の労働条件は、当事者間においてこれと異なる別段の合意をするなど特段の事情がない限り、雇用契約の内容になるものと解するのが相当である。
 (二) これを本件について敷衍するならば、控訴人は、本件求人票の雇用期間欄に「常用」と記載しながら具体的に雇用期間欄への記載をしなかったものであるから、控訴人の内心の意思が前認定のとおり期間の定めのある特別職を雇用することにあったにせよ、雇用契約締結時に右内心の意思が被控訴人に表示され雇用期間について別段の合意をするなどの特段の事情がない限り、右内心の意思にかかわりなく、本件求人票記載の労働条件にそった期間の定めのない常用従業員であることが雇用契約の内容になるものと解するのが相当である。
 〔中略〕
 (2) 被控訴人は、労働条件変更の明示がなかった旨主張する。確かに、本件合意は、被控訴人の労働条件について、期間の定めのないものから期間の定めのあるものに変更する結果を招来するものであるとはいえ、それはあくまで双方間の合意に基づくものであるから、明示の有無を問題にする余地は乏しいものであるし、期間の定めのない常用従業員の地位が解消されること自体を明示しなかったとしても、それは本件合意の当然の効果であって、現に被控訴人には、新たに期間の定めを合意することの認識があったものである以上、何ら労働条件明示義務に欠けるところはないというべきであって、この点の被控訴人の主張は理由がない。
 (3) なお、〈証拠〉の「六か月ごとに契約する特別職の用紙にサインする」との記載からすれば、被控訴人は、本件合意により期間の定めをすることの認識をしていたとはいえ、それは六か月ごとに更新されるものと期待し理解したものと推認される。しかしながら、かかる期待や理解を持っていたことの故に、本件合意が何らの法的効果を発生しないということはできないし、本件合意に際してかかる内心の期待や理解を控訴人に表示したと認めるに足る証拠もない。
 (4) また、本件雇用契約は、被控訴人において本件契約書に署名捺印したことにより、期間の定めのない契約から期間の定めのある契約に変更する結果を招来したものであるが、そのこと故に本件合意が何らの法的効果を発生するものではないと解しがたいことは前示のとおりであるし、更新を拒絶した点を見ても、本件は、期間の定めのある雇用契約が反覆更新されていた事案ではなく、控訴人にあっては、期間の定めのある特別職は過去少なからず存在し、期間満了後更新される者もあったとはいえ大部分が更新されることなく雇用契約を終了しており、被控訴人の長期間雇用継続の希望は控訴人に認識されていたとはいえそれはあくまで希望に過ぎず、控訴人がこれを承諾したとか、更新を期待できる客観的状況にあったと認めるに足る証拠もないところであり、その他本件に表れた諸事情を総合考慮しても、本件雇用契約の更新拒絶が信義則に反し権利の濫用に当たると解することもできない。