全 情 報

ID番号 05269
事件名 懲戒処分取消請求事件
いわゆる事件名 農林水産省事件
争点
事案概要  国公法違反のストライキへの参加等を理由とする戒告処分等が適法とされた事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
国家公務員法98条2項
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の濫用
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 違法争議行為・組合活動
裁判年月日 1990年4月19日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和47年 (行ウ) 113 
裁判結果 棄却(確定)
出典 時報1349号3頁/タイムズ727号149頁/労働判例562号50頁
審級関係
評釈論文 中山和久・判例評論383〔判例時報1364〕234~238頁1991年1月1日
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の濫用〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-違法争議行為・組合活動〕
 国家公務員に対する懲戒処分は、国家公務員が国民全体の奉仕者として公共の利益のために勤務することをその本質的な内容とする勤務関係に立つことから、国家公務員としてふさわしくない非行等がある場合に、その責任を確認し、公務員関係の秩序を維持するために科される制裁である。
 国家公務員に懲戒事由がある場合に、その懲戒権者が、当該国家公務員を懲戒処分するべきかどうか、また、懲戒処分としていかなる処分を選択すべきかについては、公正かつ平等であるべきことは当然であるが(国家公務員法二七条、七四条一項等)、懲戒権者は、懲戒事由に該当すると認められる行為の原因、動機、性質、態様、結果、影響等のほか、当該国家公務員の右行為の前後における態度、懲戒処分等の処分歴、選択する処分が他の国家公務員及び社会に与える影響等諸般の事情を考慮して、これらを決定できるのであって、それらは、懲戒権者の裁量に任されているものと解すべきである。
 右の裁量が恣意にわたるものであってならないことは当然であるが、懲戒権者が、右の裁量権の行使としてした懲戒処分は、それが社会観念上著しく妥当を欠き、懲戒権者に裁量権を付与した目的を逸脱し、これを濫用したと認められる場合でない限り、その裁量権の範囲内にあるものとして、違法とならないものというべきである。したがって、裁判所が右の処分の適否を審査するに当たっても、懲戒権者と同一の立場に立って懲戒処分をすべきであったかどうか又はいかなる処分をすべきであったかについて判断し、その結果と当該懲戒処分とを比較してその軽重を論ずべきではなく、懲戒権者の裁量権の行使に基づく処分が、社会観念上著しく妥当を欠き、その裁量権を濫用したものと認められる場合に限り違法であると判断すべきである。
 そこで、本件各懲戒処分が、社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権を濫用したものと認められるかどうかを検討するに、既に認定した本件各ストライキの規模、態様、その社会に与えた影響、各原告の地位及び本件各ストライキ実施に際して果たした役割等を総合的に考慮すると、本件各懲戒処分が、いずれも社会観念上著しく妥当を欠き、懲戒権者に与えられた裁量権を濫用したものといえないことは明らかである。