全 情 報

ID番号 05298
事件名 賃金等請求事件
いわゆる事件名 エス・ウント・エー事件
争点
事案概要  年次有給休暇の付与要件につき、国民の祝日、勤務を要しない土曜日、年末年始休暇を「一般休暇日」として、休日と区別して出勤率計算の全労働日に含ませる規定は労基法三九条一項に違反し無効とされた事例。
参照法条 労働基準法39条1項
体系項目 年休(民事) / 年休の成立要件 / 出勤率
裁判年月日 1989年9月25日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和63年 (ワ) 3253 
裁判結果 一部認容棄却(控訴)
出典 労働民例集40巻4・5合併号510頁/時報1326号153頁/タイムズ716号126頁/労働判例548号59頁/労経速報1377号15頁/法律新聞944号6頁
審級関係 控訴審/05476/東京高/平 2. 9.26/平成1年(ネ)3341号
評釈論文 坂本重雄・判例評論379〔判例時報1352〕229~232頁1990年9月1日/新谷真人・季刊労働法154号180~181頁1990年1月
判決理由 〔年休-年休の成立要件-出勤率〕
 二 被告は、新就業規則が昭和五九年一月より実施されており、新就業規則によると、原告は、昭和六〇年及び六一年にいずれも全労働日の八割以上出勤しなかったので、昭和六一年及び昭和六二年に年休を取得できない旨主張し(抗弁1(一)、(二))、これに対し、原告は、新就業規則は労基法三九条一項に違反し無効である旨主張する。
 昭和五九年一月から新就業規則が実施されていること、新就業規則によると、日曜日を休日とし、祝日、交替出勤日以外の土曜日、年末年始を「一般休暇日」とし、一般休暇日は、生理休暇、特別休暇などとともに、年休付与の基準となる全労働日に含められていること(全労働日とは、一年の総日数から休日を引いた日とされていること。)は当事者間に争いがない。
 そして、《証拠略》によると、新就業規則上、一般休暇日に関しては、労働義務があることを定めた規定はなく、祝日、四週目ごとの交替出勤日以外の土曜日及び年末年始を一般休暇日とする旨の規定(六四条)のほか、「業務その他の都合により従業員の全部又は一部を第五三条の勤務時間外又は第六三条の休日及び第六四条の一般休暇日に勤務させることがある。」(第五六条一項)、「時間外勤務・休日及び一般休暇日勤務をさせる場合は、所属上長は事前に理由を具して所属長に届け、その承認を受けなければならない。……」(第五六条三項)、「第五六条によって時間外及び休日・一般休暇日勤務を命ぜられた場合においては、これに従わなければならない。」(五八条)、「災害その他避けることができない事由によって臨時に必要がある場合においては、……休日及び一般休暇日に勤務させることがある。……」(六一条)、「業務上必要があるときは第六三条の休日及び第六四条の一般休暇日を他の日と振替える。」との規定が置かれていること、休日のみに関するものとしては、日曜日を休日とする旨の規定(六三条)のほかは、「満一八歳に満たない者及び女子については休日勤務はさせない。……」という規定(六二条)が存するのみであることが認められる。
 労基法三九条一項が、前年一年の全労働日の八割以上出勤を、年休付与の要件としているのは、労働者の勤怠の状況を勘案し、特に出勤率の悪い、勤務成績不良者を除外する趣旨であると解されるから、右一般休暇日を労働義務はあるが、勤務しなくても債務不履行の責を問われない日と解すると、勤務成績の不良と評価しえない右の一般休暇日における不就業を、右出勤率算定にあたり欠勤と同様に評価する結果となり、相当ではないから、就業規則等の明示の根拠なしに右一般休暇日について右のように解することはできない。しかるところ、新就業規則には、以上のとおり、一般休暇日に労働義務がある旨を定めた規定はなく、かえって、女子の休日労働を禁止していた昭和六〇年法律第四五号による改正前の労基法六一条などを踏まえたと思われる新就業規則六二条以外には、一般休暇日は休日と同様のものとして取り扱われているということができるから、一般休暇日は労働義務のない日と解すべきである。
 ところで、労基法三九条一項にいう「全労働日」とは、一年の総日数から就業規則その他によって出勤義務が課されていない日を除いた日を意味すると解されるから、新就業規則の労働義務のない一般休暇日を全労働日に含める部分は、労基法三九条一項に違反して無効であり、当該部分については旧就業規則によるべきである。