全 情 報

ID番号 05314
事件名 仮処分申請事件
いわゆる事件名 筑邦貨物自動車事件
争点
事案概要  賍物運般の被疑者として検挙され、新聞紙上に報道されたことにより、会社の信用を著しく失墜し営業上の多大な損害を与えたとしてなされた懲戒解雇が無効とされた事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 会社中傷・名誉毀損
裁判年月日 1951年9月21日
裁判所名 福岡地久留米支
裁判形式 判決
事件番号 昭和26年 (ヨ) 67 
裁判結果 申請認容
出典 労働民例集2巻4号449頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-会社中傷・名誉毀損〕
 成立に争ない乙第一号証の一、二の記載に徴すると、就業規則第六十三条には、(一)已むを得ず事業上の都合に依るとき、(二)精神又は身体に故障があるか又は虚弱、老衰疾病のため業務に堪えられずと認めたとき、(三)不都合の行為があつたとき、(四)其の他前各号に準ずる程度の已むを得ぬ理由があるときの一に該当するときは三十日前に予告するか又は三十日分の給与を支給した上解雇する旨規定してあることが認められる。而していやしくも法的拘束力を有する就業規則の適用として解雇がなされる以上解雇事由の存否の認定、情状の判定等は使用者の自由裁量に委さるべきものではなく使用者は客観的に妥当な就業規則の適用をなすべき義務があり従て其の適用を誤つた場合には其の解雇は、就業規則違反として無効であると謂わなければならない。
 被申請人は解雇事由の該当事実として申請人が被申請人からの命令もないのに同僚から依頼された鉄屑を運搬し、而もそれは被申請人の顧客より委託されたものを途中で窃取した者から頼まれて運搬したものでありこれがため申請人は賍物運搬の容疑者として勾留され其の事が当時の新聞紙に報道された為被申請会社の営業上の信用を失墜する憂があつたからだと主張し、申請人が其の主張の如く賍物運搬の容疑者として逮捕勾留されその事が当時の新聞紙に報道されたことは成立に争ない乙第二号証の一、二の記載に依り明かであり、此の新聞紙上の報道が被申請会社の営業上の信用にマイナスになつたことは容易に推察されるところである。そこでこのことが前示就業規則違反として解雇の事由となり得るかどうかについて考察する。被申請人は就業規則第六十三条の何号に該当するかを明に主張していないが、右のような事情からして同条第三号若くは第四号に該当するものとの認定に因つたものであらうことは大体推認され得るところである。然し乍ら申請人は、申請人に対する前示容疑事件が其の後不起訴処分に付された旨主張し、これについて如何なる理由に基く不起訴処分なりやの疏明は尽されていないが、被申請人提出に係る乙第三、第六号証の記載を以てしても輙く嫌疑十分なりとの断定は得難いところである。尤も被申請人は右容疑事件の犯罪としての成否は問わぬ旨極力弁疏しているが此の事は解雇の決定につき相当考慮されるべき問題である。抑々懲戒的意味を有する解雇は従業員から絶対に反省の機会を奪う最も重い処分であり、本件就業規則第六十三条の当該規定も其の意味から相当高い程度の不都合の行為若くはまことに已むを得ぬ理由あるときに限らるべきである。本件の場合申請人は前記容疑事件が犯罪の嫌疑がなかつた為か或は犯罪性が稀薄であつた為かに因り結局不起訴処分に付されたものであり、其の後申請人は犯罪の嫌疑がかゝつたことを強く反省しこれを厳しい練磨の教訓と考え誠意将来における努力を誓つていることは成立に争ない乙第三号証(上申書)に依り明白である。而も申請人が相当長期間に亘り被申請会社の従業員として自動車運転の業務にたずさわり現在に至る迄一回も業務上の事故なく、真面目に働いて来たものであることは成立に争ない甲第三号証の記載に依り容易に認められるところである。よつて右のような諸般の事情を斟酌すれば前記就業規則の規定に該当するものとは到底認め難く被申請会社が対外的信用を憂うる余り、他に適当な懲戒措置をとることなくして、一挙に申請人を解雇に処すると云うことは被申請人よりの賃金によつて僅かに生計を維持している申請人に対してまことに苛酷であり、就業規則の適用上妥当を欠くものであり従て右解雇は就業規則の恣意的解釈に基く被申請人の一方的措置と認めらるべきである。
 〔中略〕
 労働基準監督署と協議の上予告除外認定を得て解雇手続をとつたことが認められるが此の事をもつて解雇の妥当性を断定する資料とはなし難い。従つて被申請人が申請人に対してなした本件解雇は結局就業規則に違反するもので無効であると謂わなければならない。