全 情 報

ID番号 05315
事件名 仮処分異議申立事件
いわゆる事件名 富士精密工業事件
争点
事案概要  退職金および解雇予告手当を受領したことをもって解雇を承認したとはいえないとされた事例。
 整理解雇基準に該当しないにもかかわらず解雇した場合は、当該解雇は無効とされた事例。
参照法条 労働基準法2章
民法1条3項
体系項目 解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇基準・被解雇者選定の合理性
解雇(民事) / 解雇の承認・失効
裁判年月日 1951年11月1日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和25年 (モ) 3110 
裁判結果 一部変更,一部取消,申請却下
出典 労働民例集2巻5号537頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-解雇の承認・失効〕
 債権者らが、債務者の主張するように予告手当並に退職金を受領したことは当事者間に争のないところであるが、解雇の承認は、解雇の意思表示によつて生じた係争を終了させる旨の意思表示乃至は雇傭契約の合意解約の意思表示で、当事者間の契約と解すべきものであり、予告手当退職金の受領が暗黙に右意思表示のなされたことを推定せしめる場合のあることは、これを否定し得ないが、債権者らが退職金等を受領したのは、いずれも本件仮処分申請後のことであることは当事者間に争のないところであつて、右解雇の効力を争つている時のことであるから他に右意思表示を暗黙になしたことをうかがうに足る事情の疏明のない限り、右退職金等の受領のみをもつて、解雇を承認したものと推定することはできないものと言わねばならない。他に解雇の承認を認めるに足る疏明がないので、債務者のこの点の主張は採用できない。
〔解雇-整理解雇-整理解雇基準〕
 然れば、債権者A、B、C、D、E、F、Gに対する前記解雇の意思表示はその効力を生ぜず、同人らは会社の従業員であり、その後前記のように債務者会社に雇傭関係が承継されて現に債務者会社の従業員たる地位を有するものと言わねばならない。債権者H、I、J、K及びLについては、いずれも前記のように解雇基準に該当し、それだけで解雇に値する事由と認められるので、同人らに対する解雇の意思表示は期限の到来をもつてその効力を生じ、同人らは会社の従業員たる地位を喪つたものと言わねばならない。債権者Mについては、同人が会社の発表した解雇基準に該当することの認められないことは、前記のとおりである。 およそ、具体的解雇に際し一般従業員に対し解雇基準が明示された場合においては、使用者が右基準と全然無関係に、または右基準を専恣不合理に適用することは、解雇基準を定めた目的を没却せしめるものと言わねばならない。従て、一般に、具体的解雇に際しその解雇権の行使につき一般従業員にその基準を明示するときは、使用者としては解雇基準に該当するもののみを解雇する趣旨を明にしたもので、その限りにおいて使用者自ら解雇権を制限したものと解せられ、使用者が一方的に制定した就業規則に自ら拘束されるごとき効力と実質的に区別すべき理由がなく、その効力は労働条件に関する基準を示した企業内における一規範と解すべきであるから、この基準に該当しない場合の解雇の意思表示はその効力を生じないものと考えざるを得ない。従つて債権者Mに対する前記解雇の意思表示はその効力を生ぜず、同人は前記のように会社の従業員たる地位を喪わずその後承継されて現に債務者会社の従業員たる地位を有するものと言わねばならない。