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ID番号 05322
事件名 遺族補償決定取消請求事件
いわゆる事件名 倉吉労働基準監督署長事件
争点
事案概要  労働者の業務上の死亡に基づく遺族補償および葬祭料に関する労働基準監督署長の決定は、取消訴訟の対象とならないとされた事例。
参照法条 労働基準法79条
労働基準法80条
体系項目 労災補償・労災保険 / 審査請求・行政訴訟 / 行政処分の存否、義務づけ訴訟等
裁判年月日 1951年12月26日
裁判所名 鳥取地
裁判形式 判決
事件番号 昭和26年 (行) 39 
裁判結果 棄却
出典 労働民例集2巻6号723頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-審査請求・行政訴訟-行政処分の存否、義務づけ訴訟等〕
 被告が昭和二十六年一月八日原告に対して労働基準法第七十九条第八十条第八十五条第百条に基き、遺族補償並に葬祭料として合計金十四万七千百八十一円をAの妻訴外Bに支払うべき決定をしたこと、及び原告が右決定を不服として、鳥取県労働者災害補償審査会に対し審査請求の申立をしたところ、その請求は理由がないとして却下されたことは孰れも当事者間に争のないところである。
 よつて先づ、原告が行政訴訟を提起して被告のなした本件決定の取消を求めることができるかどうかについて判断するに、労働基準法第八十五条第一、二項八十六条第一項には行政官庁(労働基準監督署長)は業務上の負傷、疾病又は死亡の認定、補償金額の決定その他補償の実施に関して異議ある者の請求に依り又は職権で審査又は事件の仲裁をすることができる。右の審査及び仲裁の結果に不服のある者は労働者災害補償審査会の審査又は仲裁を請求することができる旨規定してあり、更に同法第八十六条第二項にはこの法律による災害補償に関する事項について民事訴訟を提起するには、労働者災害補償審査会の審査又は仲裁を経なければならないと規定してある点を綜合すると、右の規定は行政庁の有する専門的知識と経験とに基いて災害補償に関する紛争をできるだけ簡易にしかも迅速適正に解決するために設けられたものであることは明らかであり、右労働基準監督署長又は労働災害補償審査会の審査及び仲裁は一種の勧告的のもので関係当事者に直接権利を与え或は義務を負わすような特別の法律上の効力を有するものでないと解するを相当とする。
 もつとも、同法第七十九条第八十条の規定に違反した者に対しては、同法第百十九条に罰則が定められているが、右は遺族等の生活の保護が迅速に行われることを必要とするため監督機関が罰則の睨みをきかせて災害補償の履行を監督視し促がすことによつてその実施を確保せんとするにあることが窺われるのみならず、たとい使用者が起訴せられても刑事訴訟手続中においてこれを争えるから右罰則規定の存するゆえをもつて前記審査が法的拘束力を有すると断ずることはできない。しかしておよそ行政訴訟を提起し得るためには行政庁によつて法律上の権利義務に関する効果の発生する行政行為がなされることを要し、たとい行政庁による処分がなされてもそれが権利義務についての法的効果を発生しないときはいわゆる行政訴訟の対象とならないものと解すべきところ、被告のなした本件補償金額の決定は、原告に災害補償をすべき法律上の義務を課したものでないことは前段説示に依り明らかであるのでいわゆる行政訴訟の対象とならないものといわねばならない。