全 情 報

ID番号 05326
事件名 仮処分申請事件
いわゆる事件名 島原鉄道事件
争点
事案概要  バスの車掌として試用中であり第一組合に所属していた者が、会社と第二組合との間で締結されたユニオンショップ協定により解雇されたこと等にかかわる事例。
参照法条 労働基準法89条1項3号
労働基準法2章
労働組合法7条1号但書
労働組合法16条
体系項目 解雇(民事) / ユニオンショップ協定と解雇
労働契約(民事) / 試用期間 / 法的性質
裁判年月日 1954年3月22日
裁判所名 長崎地
裁判形式 判決
事件番号 昭和29年 (ヨ) 9 
裁判結果 申請一部認容,一部却下
出典 労働民例集5巻2号123頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働契約-試用期間-法的性質〕
 問題は、更に「六ケ月の試傭期間を終え引続き採用されるに至つたときは、試傭の当初より採用されたものとする。」ということは一体如何なる趣旨であるかということである。この点について申請人らは、六ケ月の試傭期間を終えた場合には、当然自動的に本社員たる地位を取得する趣旨であると主張するが、しかし「六ケ月の試傭期間を終え引続き採用されるに至つたときは、試傭の当初より採用されたものとする。」という規定からは、これを如何に理解するとしても、文理上到底申請人ら主張の如き解釈を導き出すに由がなく、前記認定の本協定締結の趣旨、目的に徴しても、直にかような解釈を肯定すべき合理的な根拠が存しない。そこで本協定は矢張り会社に調査詮衡の権限が留保されており、会社がその詮衡の結果社員として試傭員を本採用したときに、初めて試傭員は社員たる地位を取得し、試傭の当初に遡つて、引続き社員として採用されたと同様に処遇される趣旨であると解するのが相当である。しかしながら又一方前記認定の本協定締結の趣旨目的から考えると、六ケ月の試傭期間を終つたのち、会社が随意に適格性の調査詮衡を始めれば良いという趣旨に解するのは相当でない。何故なら若しかような解釈をとるとするならば、会社は適格性の調査詮衡に藉口して従来どおり臨、試傭員をそのままの状態で、何時までも雇傭しておくという結果にならぬとも限らぬし、かくては、実質的に全く社員と同一の業務に従事しながらも、長期間、臨、試傭員として低賃銀と不安定な地位に放置されていた従業員の地位を安定させるべく締結された本協定の趣旨目的は、全く無意味に帰することになるからである。かように考えてくると、本協定の趣旨は、六ケ月の試傭期間内に社員としての適格性を調査しこれに欠くるところがなければ、会社としては期間の満了と共に当然社員として本採用をすべく、従業員を臨、試傭のまゝの不安定な状態に置かない義務を負うものと解するのが相当である。〔解雇-ユニオンショップ協定と解雇〕
 労働組合法第七条第一号但書に「特定の工場事業場」と在るのは何も一の工場事業場に限定された趣旨ではなく、特定していさえすれば複数の工場事業場であつても差支えがないと解されるから、従つて第一組合が会社の特定した鉄道部門及び自動車部門を基盤として組織され、それが従業員の過半数を代表するものである限り、会社との間に前記の如き広義のユニオン・シヨップ制の協約を締結し得ることは当然であり、又第二組合が会社の特定した自動車部門を基盤として組織され、それが自動車部門に属する従業員の過半数を代表するものである限り、会社との間にユニオン・シヨップ制の協約を締結することも亦これを禁ずべき理由はない。然らば自動車部門について、第一協約のユニオン・シヨップと第二協約のユニオン・シヨップとが如何に作用し合うかが問題になるが、元来第一組合は鉄道部門及び自動車部門を基盤として組織され、第二組合は自動車部門を基盤として組織されたものであるから、前記の如く、それぞれユニオン・シヨップ制協約の締結を妨げないとしても、こと自動車部門に関する限り、議論はあるが、二つのユニオン・シヨップの効力は矛盾し、衡突し、相殺し合う結果、互にその効力を実動し得ない状態に陥るものと解するのが相当である。さすれば申請人X1、同X2を除くその余の申請人ら五名が、自動車部門に属する従業員であるとしても、同申請人らが第一組合の組合員である限り、第二協約のユニオン・シヨップは同申請人らに対しては実動し得ないと認むべきであるから、従つて申請人ら五名が第二組合に加入しないことの故を以て、同申請人らを解雇することは許されない筋合といわねばならぬ。