全 情 報

ID番号 05346
事件名 仮処分申請事件
いわゆる事件名 東芝電気事件
争点
事案概要  電球工場技術係長から営業部業務課への配転命令につき、業務上の必要性が認められ、不当労働行為には該当しないとされた事例。
 業務上の必要性に基づいてなされた配転命令を拒否したことを理由とする解雇は、労働基準法二〇条一項但書にいう「労働者の責に帰すべき事由」にあたり、即時解雇が有効とされた事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法20条1項但書
体系項目 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令権の限界
解雇(民事) / 解雇事由 / 違法争議行為・組合活動
解雇(民事) / 解雇予告と除外認定 / 除外認定と解雇の効力
裁判年月日 1955年3月31日
裁判所名 東京地
裁判形式 決定
事件番号 昭和29年 (ヨ) 4002 
裁判結果 申請却下
出典 労働民例集6巻2号203頁/タイムズ47号89頁/労経速報168号5頁/経済法律時報15号10頁
審級関係
評釈論文 季刊労働法17号65頁/討論労働法42号23頁/労働法令通信8巻36号1頁
判決理由 〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の限界〕
〔解雇-解雇事由-違法争議行為・組合活動〕
 (A)申請人Xは、
 〔中略〕
 その技術サーヴイスも従来の程度を起えているものでなく、同人はその前職である本社研究課勤務当時行つていた螢光燈のバラストの研究を電機工場において専念していると主張するのであるが、前記のとおり従来の技術サーヴイスに専念すべき係のものがなく不充分であつたからこそ技術サーヴイスの係を新設したのであり、
 〔中略〕
 A技手は申請人が就任を拒否したため、その係としては適任とはいえぬが、次善の策として充てられたのであり、Aの従前の研究は会社としても推進していく方針であつたからその技術サーヴイスは所期の目的を達するに至らないのはやむを得ないのであり、それにも拘らず大阪へのB会社ならびにC会社関係でまた群馬県その他都内にも幾度か出張折衝に当つていることが認められるからこの点の主張は理由がない。
 (B)
 〔中略〕
 したがつてD製造課長の後任にはさきに放電管工場製造課長Eが発令されることゝなつていたのを発令二日前に変更したものであるから、Fを最適任と考えていたわけではないと主張する。しかしながら
 〔中略〕
 Fはこれによりさき約二年間芝浦電球工場において電球の検査設計等の係長を歴任し電球の製造方面の経験を有していたのであり、その後研究課にあつても前記業務に携わつていたことが認められるから同人をして製造課長の職に充てんとした人事異動もこれを不合理なものであると断定することはできずまたEがさきに発令されることになつていたとの点については疎明がない。
 (C)申請人Xは
 〔中略〕
 繊条製造方法の大巾な改良管理が可能となる状態にあつた時期に申請人Xを転勤せしめることは不合理であると主張するが、
 〔中略〕
 技術係の新設は強ち申請人Xの意見がとり入れられたが故に新設されたわけではなく、申請人Xを技術係長に任じたのも、当時電球工場より人選する方針を採つたが故にほかならないことが認められ、会社がFをして製造課長と兼務せしめることにより申請人Xを転勤せしめてもよいと判断したこと前記のとおりであつてそのことがよしや人事管理の面において聊か当を得なかつたにしても、このような判断自体を不合理なものと断定することはできない。
 (D)申請人Xは技術サーヴイスの係としてG技手を栓衡の際考慮に入れなかつたのは不合理であると主張する。しかしながら
 〔中略〕
 しかして他に本件人事異動が不合理であることしたがつて業務上の必要がなかつたことを疎明できる資料はないから、一応業務上の必要があり合理的なものと言わなければならない。
 (2)申請人Xは右転勤命令は業務上の必要があつても、申請人組合の蒙る損失が著しいから申請人組合に対する支配介入行為であると主張する。
 〔中略〕
 申請人組合は昭和二十三年当時まで組合役員は概ね役付の者及び永年勤続者をもつて占められていたところ、申請人Xは
 〔中略〕
 昭和二十八年十月よりの賃上、越年資金斗争においてはHとともに最高戦術会議の構成員として争議の最高指導に当つていたこと、しかしてこの争議は主として時限ストという斗争手段がとられ、
 〔中略〕
組合意識の上から言つても申請人組合の中心をなしている大崎支部を担当し、大崎支部の職場討議の指導を行つていたことが認められるから申請人Xが右斗争継続中に営業部業務課に転勤せしめられることにより組合本部のある大崎支部に常時あつて最高戦術会議の構成員として随時組合の運営に参劃し、中心勢力である大崎支部の職場組織の指導をすることに多少の困難をきたし、ひいては組合運営に不便を及ぼすであらうことを否定できない。しかしながら営業部業務従業員の所属する銀座支部(中央区(略)所在)との地理的関係からみて申請人組合の活動に格段の支障をきたすものとは考えられないのみならず
 〔中略〕
申請人Xを営業部業務課転勤を命じたことをもつて組合活動を抑圧するものと断ずることはできない。即ち右転勤が前記のとおり業務上の必要に出たものである以上、組合活動に多少の不便をきたしてもやむを得ないものといわざるを得ない。従つて支配介入行為であるとの主張は理由がない。なお申請人Xは本件転勤については申請人Xに事前に諒解を得ていなかつたから支配介入の意図を推測せしめるものであると主張する。しかしながら、
 〔中略〕
 被申請人会社において人事について事前に本人に諒解を求めることを慣行としていた事実はなく、申請人Xをさきに技術係長とした際もI工場長が申請人Xに対し技術係が新設されるが申請人Xを推せんしたいと話したことがあるに過ぎず決して事前の諒解を求めているわけでもないことが認められ、また、金属工場のJの昭和二十八年二月十日の電機工場への転勤、昭和二十七年五月三十一日のK運転手の解雇、Hの資材課への転勤等についても本人乃至所属労働組合への事前の諒解などという措置のとられたことについては充分な疏明はない。したがつて申請人Xに対し事前に諒解を求めなかつたといつて支配介入の意図を推測させるものではない。
 (3)申請人Xは右転勤命令は労働組合法第七条第一号に違反する不当労働行為であると主張する。
 申請人Xは係長技手より平技手とされるのであり、また技術家でありながら技術を生かす職域から離れるものであるから不利益であると主張するのであるが、
 〔中略〕
 係長技手と平技手とは出張旅費等でその支給額が多少下廻ることになるけれども、会社は技術サーヴイス係としたのちも経済上の不利益を蒙らしめぬよう配慮する意図をもつていたのであり、申請人Xの実収入が全体として下廻るとも速断できない。元来経営者が従業員を職場に配置するにあたつては経営の合理的な運営の観点から適材を適所に就かしめるよう配慮すべきは勿論であつて、それが多数人に関するので逐一個々の従業員の希望に合わないところがあつても蓋しやむを得ないものというの外はない。若しその経歴を無視し、かつそのため従業員をして勤労意慾を滅殺させ引続き勤務することを得しめないような不当な場合はともかく、申請人Xの場合はその経歴及び従前の職歴と全く無関係の業務を担当させようとしたものではないことは既に述べたとおりでありしかも前記のような業務上の必要あるにおいては、本件転勤を目して不利益な取扱であるとは言えない。よつてこの点の申請人Xの主張は採用できない。
〔解雇-解雇予告と除外認定-除外認定と解雇の効力〕
 申請人Xは本件解雇は労働基準法第二十条に違反し予告手当の支払をなさずして即時解雇の意思表示をなしたものであるから無効であると主張する。しかしながら本件解雇の意思表示は同条第一項但書後段の規定の適用さるゝ場合であるから予告手当の不払によつて無効であるとすることはできない。よつてこの点の主張も採用できない。