全 情 報

ID番号 05363
事件名 家屋明渡ならびに解雇無効確認請求反訴事件
いわゆる事件名 三井鉱山事件
争点
事案概要  「共産主義者またはこれに準ずる行動のある者で会社の事業の正常なる運営を阻害する者」という解雇基準に該当するとしてなされた解雇につき、会社の事業の正常なる運営を阻害する者にはあたらないとして、解雇が無効とされた事例。
 解雇予告手当および退職金を受領したことをもって解雇の承認があったとはいえないとされた事例。
参照法条 労働基準法3条
労働基準法89条1項9号
体系項目 解雇(民事) / 解雇事由 / 業務妨害
解雇(民事) / 解雇の承認・失効
裁判年月日 1955年12月13日
裁判所名 札幌地
裁判形式 判決
事件番号 昭和26年 (ワ) 261 
昭和26年 (ワ) 473 
裁判結果 一部棄却,一部認容
出典 労働民例集6巻6号773頁/タイムズ54号75頁
審級関係
評釈論文 日労研資料346号3頁
判決理由 〔解雇-解雇事由-業務妨害〕
 成立に争いない甲第二号証および被告本人尋問の結果によると、被告は昭和二十五年一月一日日本共産党に入党してA会社美唄細胞に所属していたことを認めることができる。証人Bの証言によると、被告が病院の設備および健康保険制度を問題として取り上げ、坑内労務者へ働きかけたり、ビラを頒布する等の行為をしたことが窺われないではない。被告本人尋問の結果によれば、被告宅において回数は多くないが細胞会議を開き、その際病院の状態および健康保険制度について討議したことを認めることができ、
 〔中略〕
 被告が、原告会社が合併した結果従業員に対して労働強化を強制している、坑内作業は重労働である。医師の給料が安い、原告会社が不良化防止を主唱しているが現在の住宅の設備では不良化防止はできないので、住宅の完備を図る必要がある等の事項を全炭労の機関紙に発表し、かつビラにして頒布したことを認めることができる。このように原告主張の事実は全くの事実無根というのではないが、ビラ頒布についてみても、その日時、場所、回数、内容等については判然としないのであり、証人C(第一回)は、被告が自宅においてD、E、F、G、H、Iらと会合し、活溌に細胞会議を開き、原告主張のような協議事項を決定し、それをビラにして頒布した旨供述しているが、右供述は伝聞供述であり、かつ精確な記憶による証言でないことは同証人のみずから認めるところであるから右供述はにわかに措信する訳にはいかない。その余の原告の主張事実はこれを認めるに足りる適確な証拠が無い。そうである以上は右認定事実について判断する限り被告の行為は社宅内の集会と原告会社の企業の運営面における若干点に対する批判的宣伝活動とであつて、それにより原告会社の企業の正常な運営を阻害するに至つていると断定をするにはなお不十分といわねばならない。
〔解雇-解雇の承認・失効〕
 原告は、被告が予告手当金および退職手当金を受領した上その受取証を原告あて送付しているので、被告が本件解雇を承認したものであるとして解雇の有効を主張するのであるが、成立に争いない乙第一号証および被告本人の供述に弁論の全趣旨を総合すれば被告は原告会社に対して解雇を認めるものでなくあくまでその無効を主張して闘争し、生活資金として一時受領するだけの意思であることが認められ、被告が予告手当金等を受領したのは解雇の承認ではないと認められるので、この点に関する原告の主張は採用の限りでない。