全 情 報

ID番号 05376
事件名 仮処分申請事件
いわゆる事件名 高島鉄工所事件
争点
事案概要  作業中に新聞や雑誌をときどき読みふけっていたこと、作業態度が不真面目であること、暴行をはたらいたこと等を理由とする懲戒解雇が有効とされた事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の根拠
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 暴力・暴行・暴言
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職務懈怠・欠勤
裁判年月日 1964年3月6日
裁判所名 金沢地
裁判形式 判決
事件番号 昭和35年 (ヨ) 275 
裁判結果 申請却下
出典 労働民例集15巻5号921頁
審級関係
評釈論文 平岡一実・ジュリスト362号136頁
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の根拠〕
 しかしながら、使用者は、たとえ準拠すべき明示の規範のない場合でも、本来固有の権能として企業秩序に違反した労働者に対して、企業秩序維持と正常且つ円滑な業務の運営の確保のために、企業からの排除その他の制裁を科するいわゆる懲戒権を有するものと解するのが相当である。これは、懲戒権及びその行使は、労働者を雇入れて合目的的な企業の経営内に組織づけ、経営秩序を形成維持しながら、正常な業務の運営を管理確保するという有機的経営組織体に内在する本質的要請に基いて当然使用者に認められるべきものであるからである。従つて右と反対の見解に立つ原告の前記主張は理由がない。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-暴力・暴行・暴言〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-職務懈怠・欠勤〕
 申請人は昭和三二年二月頃被申請人らの経営するA鉄工所に入所し、外周研磨工として働くようになつたが、既に研磨工としての経験を有し、かなり熟達していたこと、昭和三四年一月頃迄は中橋工場に勤めていたが、その当時勤務成績は普通であつたこと、ところが昭和三四年一月頃(略)所在の工場へ移つてから出勤には遅刻し勝ちとなり、更に勤務時間中に新聞や週刊誌を読んだり、無断で職場を離れて他人と話し込んだりしてその勤務態度は極めて怠慢となり、従つてその生産能率は著しく低かつたこと、それが目に余るほどであつたため、申請人の上司に当る申請外B(係長)同C(職長)や同僚の申請外D(旋盤工)等は、屡々その仕事振りについて注意を与え、改善を促したが、少しも反省の色を示さなかつたこと、申請人の非能率は、次の工程である仕上工程(組立工程)の渋滞を招来し、そのため仕上工程部門から苦情が出たばかりか、結局受註先から定められている納期迄に仕事を完成出来ない虞れが出たので、仕事の一部を再下請に出さざるを得ない破目に迄陥つたこともあつたこと、申請人の懶惰な勤務態度は所内の者の目についたのみならず、納期が遅れ勝ちとなることを気遣つて督促に来た元請先である訴外株式会社Eの外註課員の目にも止まるところとなり、被申請人らに対し、その点を指摘し、改まらないようなら、注文を控える旨警告を発し、或は直接申請人に注意を与えたこと、そのためA鉄工所が注文を受けていた仕事の一部は、他の会社へ廻されるに至り、A鉄工所としては、一部注文を失う迄に至つたこと、昭和三四年一二月頃被申請人らは、前記株式会社Eの労務課長をしていた申請外Fに対し、申請人の勤務成績の不良を理由とする解雇につきその意見を徴したところ、同人から当時申請人らが、組合結成中であるから不当労働行為とみられる虞れがあるから、それは慎重にするようにと答えられ、一応申請人の解雇を思い止つたこと、かくするうち、昭和三五年四月六日申請人は、同僚からその前日被申請人Gが申請人の仕事の完成量について苦情を言つていることを聞いていたので憤慨の余り、喰つてかかるようにそのことを抗議し、ギヤー軸を床に投げつけ、被申請人Gの胸倉をつかんで同人を機械に押しつけたこと、被申請人Gも「お前などになめられるか」と対抗する構えを示し、あわやと思われたが、その場は仲裁に入る者があつて、一応治つたこと、このため遂に被申請人らは、申請人に対し、昭和三五年四月一六日付で、「(1)作業中に新聞や雑誌をときどき読みふけつていた。(2)作業中に横の者と話をしていた。(3)作業態度が不真面目である。(4)被申請人Gに対し、暴挙に出た。」ことを理由として解雇する旨の意思表示をなしたこと、A鉄工所労働組合では、申請人に対する右解雇問題につき臨時組合大会を開催し、組合としてとるべき態度を討議したが、結局一一票対一九票をもつて、組合は申請人を支援しないことを決定したこと、以上の各事実が認められる。証人Hの証言により真正に成立したと認められる疎甲第一二号証、前顕証人I、同J、同H、同Kの各証言、申請人本人の審訊及び尋問(第一、二回)中、右認定に反する部分は前掲各疎明資料と対比すると容易に信用できないし、且つ証人Lの証言により真正に成立したと認められる疎甲第二〇号証の一、二によつても右認定を左右するに足らず、他に右認定を覆するに足りる的確な疎明資料はない。
 してみると、申請人には、被申請人らの主張する解雇理由に該当する事実が存在したことは明らかであり、本件解雇は右事実を理由としてなされたものと認めるのが相当である。