全 情 報

ID番号 05378
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 松沢電気工事事件
争点
事案概要  交通事故による一眼失明の場合の損害額につき、労災保険法二〇条に関する労働基準局長通牒の基準が用いられた事例。
参照法条 労働者災害補償保険法20条
民法709条
民法416条
体系項目 労災補償・労災保険 / 補償内容・保険給付 / 障害補償(給付)
裁判年月日 1964年3月16日
裁判所名 秋田地
裁判形式 判決
事件番号 昭和38年 (ワ) 34 
裁判結果 一部認容,一部棄却
出典 時報373号38頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-補償内容・保険給付-障害補償(給付)〕
 本件事故後、原告が入院加療費、診断の為の上京費及び湯治費用として金一四、三八〇円を支出したことは当事者間に争がなく右出費はいずれも本件事故発生により原告に生じた積極的損害であると判断される。次に原告が本件事故により右眼を失明したことは、原告の爾後の労働能力に影響すると考えられる。この点につき、原告の援用する労働基準局長通牒別表労働能力喪失表はもとより無限定的に適用できるものではないけれども、労働者災害補償制度の趣旨を勘案しつゝ多数の症例を格付したものとして、特段の事情がない限りこれに依拠することが公平に適すると解される。同表によれば一眼失明の場合の労働能力喪失率は一〇〇分の四五であるが、被告Yの供述するように原告が現に自転車、オートバイを乗用できるとしてもそのことだけでは原告の労働能力喪失率が右の程度に至らないとはいえないし、他に本件で右喪失率の適用を不合理とすべき事実はない。原告が訴外会社に日給傭工(検査係)として勤務し、本件事故直前の昭和三七年一月から四月迄の間に計四六、六八八円を支給されていたことは《証拠略》により明らかであるから、原告は本件事故当時金一四二、〇〇九円(円未満切捨、以下同じ)の年収を期待し得たものである。前示甲第九号証、乙第二号証によれば原告の生年月日は昭和二年二月二二日であるところ、昭和三五年一二月厚生省統計調査部公表の第一〇回生命表による満三五年の男子の平均余命は三五、二七年であるから、原告は本件事故後なお少くとも三五年間は生存し稼働し得べきものと解される。よつて、原告は前記年収の三五年分の一〇〇分の四五に当る金二、二三六、六四一円に相当する利益を本件事故により失つたもので、これをホフマン式計算法により法定利率による三五年分の中間利息を控訴した額に換算すれば、金八一三、三二四円となる。
 ところで前記一の如き本件事故の経緯に鑑みるときは、事故発生の責任は原告と被告Yとが対等の割合で負担するものと解するのが相当である。よつて被告等は原告の前記積極的損害及び得べかりし利益の喪失額合計金八二七、七〇四円の半額に相当する金四一三、八五二円を賠償しなければならない。