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ID番号 05382
事件名 仮処分申請事件
いわゆる事件名 日本食塩製造事件
争点
事案概要  違法争議行為を理由とする懲戒解雇につき、権利濫用として無効とされた事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
民法1条3項
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の濫用
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 違法争議行為・組合活動
裁判年月日 1964年4月27日
裁判所名 横浜地
裁判形式 決定
事件番号 昭和38年 (ヨ) 659 
裁判結果 申請認容
出典 労働民例集15巻2号393頁
審級関係
評釈論文 宮本安美・法学研究〔慶応大学〕38巻2号73頁/野村豊弘・ジュリスト367号129頁
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の濫用〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-違法争議行為・組合活動〕
 (一)被保全権利の存否
 (1) 先ず、会社の主張する解雇理由の当否につき、逐次考えてみるに
 (イ) 職場放棄の点については、前記認定のとおり、女子作業員は組合の指令に基づき安全出勤の名のもとに朝の就業前職場集会に参加し、ことさら約一〇分ぐらい就労を怠つたものであり、これらはいずれもR・H・C導入に伴う労働条件に関し事前協議確保の要求貫徹のためなした組合の一貫した争議行為と目される。会社は組合と関係なく申請人がそそのかしたものというが、その提出した疏明によつてはこれを認めるに足りない。また、会社は、右行為が仮りに組合の争議行為であるにせよ、会社と組合間には労働協約で争議予告義務が規定せられているので何らその予告がない以上右争議行為は違法であると主張するが、争議行為の予告義務は争議権の行使自体を制限するものでなく、たとい、これに違反しても直ちに違法とはならず、かかる争議行為が協約に違反する点において組合に債務不履行の責任を生ずることがあつても、争議行為自体が民刑の免責を失うものでないからその主張は失当であり、右理由をもつてなす解雇は結局組合活動を理由としてなした不当労働行為にあたるというべく許さるべきでない。
 (ロ) 次に、無届集会の点であるが、前記三月一五日の集会は会社に対し無届でなされたものであり、労働協約中の組合活動一〇条によれば組合活動のため会社の諸施設を利用する場合は事前に会社の許可を要する定めであることが認められるが、右は施設の管理権を有する会社の当然の権利を定めたのに止まり、管理権侵害の名のもとに不当に組合活動を抑制してはならないこともいうまでもないことであつて、会社がそのころ右集会に使用した倉庫生産作業場を使用する必要があつたとか、特に管理上拒否すべき特別事情が存したとか、或いは、組合が使用したがために特に損害が発生したとかの事情が何ら疏明がない本件においては無届集会の違法性は極めて軽微で、解雇に価する行為とは到底認められない。
 (ハ) さらに、入門妨害の点についてみるに、ストライキ中といえども、会社の首脳である専務取締役に対しピケを張り入門を阻害することは許されないことは明白であるが、右妨害も極めて短時間に終り、暴力行為を伴つたというのでもなく間もなく到着したA執行委員長の指示により素直に入門に応じた経緯が認められるのでこの入門妨害の点をとらえて解雇事由となすことは適当でない。
 (ニ) なお、経歴詐称の点であるが、かかる入社年月日に関する三、四日の相違を理由として解雇事由となすことは、就業規則六六条四号に身許履歴の重要な事項について虚偽の届出をなしたとき懲戒解職事由となると規定しているところからするも不当なること明白であり、また、会社は申請人が前勤務先たるB鉄工所より退社を要求されていた事情を秘匿し会社へ就職したのも履歴について虚偽の届出をなしたものと主張するが、前勤務先において如何なる具体的な非難さるべき非行があつたかについて何ら疏明がないので履歴の重要な事項に該当するかどうか判断するに由なくこれまた採用できない。
 (2) 右のとおり(1)の(ロ)(ハ)について申請人の行為に違法を認められないではないが、これを個別に解雇理由となすに足らないし、さらにそれらを綜合して考えても、従業員にとつて死刑の宣告にも比すべき最も過酷な処分である懲戒解雇に価するものとは到底認められない。組合の闘争につき申請人よりもつと指導的地位にあつた組合委員長の懲戒処分が遥かに軽いのに較べると、前記の如き軽微な事由を羅列して申請人のみを独り最も重き懲戒解職処分にふしたのは、会社側に何らか他の不当な目的を達成するためにせんとする意図があるものと推測するのほかはない。
 (3) 従つて、会社の主張する懲戒解雇は結局理由なきに帰し、解雇権の濫用として無効であり、申請人は、依然雇傭契約上の地位を有するものと認められる。