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ID番号 05411
事件名 雇用関係存在確認等請求事件
いわゆる事件名 日本青年会議所事件
争点
事案概要  執務能力を著しく欠くとしてなされた解雇につき、チームワークを要求される小人数のサービス機関であること等から有効とされた事例。
参照法条 労働基準法2章
体系項目 解雇(民事) / 解雇事由 / 職務能力・技量
裁判年月日 1965年4月28日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和39年 (ワ) 2159 
裁判結果 棄却
出典 労働民例集16巻2号347頁/タイムズ178号173頁
審級関係 控訴審/00735/東京高/昭42. 1.24/昭和40年(ネ)1041号
評釈論文
判決理由 〔解雇-解雇事由-職務能力・技量〕
 以上の観点に立つて、前記理事会が本件解雇を議決するにあたつて、右裁量を誤つたものであるかどうかを考えるに、(1)原告が被告主張の頃(この点は原告において明らかに争わない。)日本青年会議所の会員名簿およびA誌の校正を行つたことは当事者間に争がなく、証人B、Cの各証言を綜合すれば、原告がA誌日本語版の校正について一頁に一、二箇所のミスをしたことがあること、採用当初から企画室に勤務し、会議議事録の作成にあたつていたが、その表現が非常識であり的確を欠くことがあつたことをうかがえないではないが、これらはいずれも前認定の如く原告が被告会議所に勤務して日未だ浅い時期の出来事であること及び〔中略〕原告は昭和七年生れで大学院経済研究科を卒業していることを考慮に加えれば、次第に事務に慣熟すると共にこの種の執務能力が向上する見込がないと即断することはいかにも早計であるといわなければならない。(2)しかし、〔中略〕(イ)被告の事務局では、昭和三八年一〇月頃から全国大会、世界会議を控えて毎日急を要する書類発送業務が輻輳し、事務局職員がほとんど総がかりでこれに忙殺されていたに拘らず、原告はこの事情を知りながら積極的に手伝おうとはせず、他の事務局職員から手伝を依頼されても快く応じなかつたこと(原告本人の供述中これに反する部分は採用しない)、(ロ)昭和三八年六月頃被告会員と電話連絡をする際原告は会員の言うことを容易に理解できず、同輩または目下の者に対するような言葉づかいをすることが度々あつたこと、(ハ)昭和三八年八月Dホテルで開催された被告主催の経営ゼミに原告が青年会議所事務局の職員として参加(参加の事実は当事者間に争いがない。)したとき、夜間とはいえ勤務中であるのに、原告だけがゆかた着で会場ロビー等を歩いて当時の会頭から同行していた古参の同僚Bを通じて注意を受けたこと及び同夜右注意を受けたことによる昂奮の覚め切れぬ折柄、右Bが原告の買求めて置いておいたオレンジジュースを無断で飲んでしまつたことに憤激し、「どうして人のものを黙つて飲むんだ。」「それじや全く盗み飲みじやないか。何たる非常識なことをするんだ。君は私のことをいろいろ言うけれども、あんただつて何だ。てんでなつちやいないじやないか。」と、階上の別室に宿泊中のゼミ参加会員の耳にも達するほど声高かに且つ烈しい口調でなじつたこと(証人Bの証言中右認定に反する部分は採用しない。)、(ニ)原告は同年一二月二四日同僚E及びFを散歩に誘つたところ、途中で右両名が秘かに逃出し行方をくらましたことに憤慨し、同月二六日朝勤務時間開始前被告事務室においてEに対し「まいたのはひどいじやないか。」となじつたところ、「そちらの出方がエチケットに反するから、その位当り前でしよう。」と言いかえされて激昂し、手にしていた出勤簿(黒色厚紙表紙三〇×二〇センチメートル)の平面でEの左肩を音高く打つたこと(証人Eの証言および原告本人尋問の結果中右認定に反する部分は何れも採用しない)、(ホ)被告は全国二八三都市の青年会議所を正会員とする法人であつて、しかもその会員数が年一割以上増加して行くので、会員の行う地域開発、社会奉仕等につき連絡、調整、指示をする被告事務局の担当事務は、十余にのぼる各種委員会並に一企画室の運営のほか庶務、人事、経理その他に及び、わずかに十名内外の被告事務局職員では手不足で、総会、理事会、委員会などを開催する場合の如きは、事務局長以下職員全員が切手を貼るなど互いに他に協力し、緊密ないわゆる「チームワーク」をとる必要があること、がそれぞれ認められる。そして、以上(イ)ないし(ホ)の各事実を通観して仔細に検討してみると、原告は、このような「チーム・ワーク」を要求される小人数のサービス機関の一員として、執務能力の点で著しく欠けるところがあり、被告理事会において「将来見込がない」と判断したことは必ずしもこれを早計と断ずることはできない。(もつとも、原告本人尋問の結果によると、原告はその作成したJ・Cデー統一行事の実態報告書につき副会頭および事務局長から「力作」として賞讃されたことがあることが認められるけれども、この一事だけでは未だ右認定を左右するに足らず、他にこの認定を覆えすだけの証拠はない。)してみれば、前記理事会が就業規則第三二条を適用して本件解雇を議決するにあたり、裁量の範囲を逸脱したものとはいい得ないから、本件解雇が就業規則の適用を誤つたものであるとする原告の主張は採用のかぎりでない。