全 情 報

ID番号 05422
事件名 解雇無効確認等請求事件
いわゆる事件名 興国人絹パルプ事件
争点
事案概要  組合専従者に対する非能率を理由とする解雇、経営合理化による人員整理を理由とする解雇が許容されなかった事例。
参照法条 労働基準法2章
労働組合法7条
体系項目 解雇(民事) / 解雇事由 / 勤務成績不良・勤務態度
解雇(民事) / 解雇事由 / 違法争議行為・組合活動
裁判年月日 1965年8月25日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和34年 (ワ) 2085 
裁判結果 認容
出典 労働民例集16巻4号617頁/時報426号43頁/タイムズ183号188頁
審級関係
評釈論文 飯倉一郎・労働経済旬報642号16頁
判決理由 〔解雇-解雇事由-勤務成績不良・勤務態度〕
〔解雇-解雇事由-違法争議行為・組合活動〕
 3そこで、本件解雇の効力について考えてみる。
 (一)原告の昭和三一、三二年度における成績は、前記認定のとおりであるから、一応解雇基準B項に該当するものと云えよう。しかしながら、右解雇基準を当時組合専従者であつた原告にも一律に当てはめて本件解雇に及んだことの合理性については、次のような疑点が存する。(イ)本件人員整理が被告会社において経営合理化の必要に迫られ、「企業の効率的運営に寄与しない者」を対象に行われるものであることは、前記「人員整理要領」からも明らかであるところ、原告は後記のような労働協約により組合業務に専従する従業員であつて、その期間中原告が右にいう「企業の効率的運営に寄与」しないことは、被告会社として当然予期し承諾せざるを得ない立場にあるのであるから、かような従業員について低能率を理由として解雇する業務上の必要性は少くともその専従期間中には現在しないものと云える。もつとも、解雇時に接着した近い将来に専従を解かれ職場に復帰することが確実に予測されるような場合には、右解雇の必要性はなお現在するものと云うを妨げないけれども、原告について本件解雇当時かような事情があつたと認められる証拠はない。また、一般に低能率に専従者を解雇すればこれに代つてより高能率の従業員が専従者に選ばれることが予想されるから、企業効率はさしひきかえつて低下することとなるべく、この点からも、組合専従者について、非能率を理由としてこれを解雇することは、通常の場合合理性を欠くものと考えられる。(ロ)原告について昭和三二年下期の考課の査定は行われず、結果的に評点零とみなして成績順位が定められていることは前述のとおりであるが、それ以前の査定期間について評点がマイナス一・五、マイナス一・〇、マイナス〇・五と次第に向上しているのみならず、前出各証言および原告本人の供述によれば右期間中原告はA短大(夜間)に通学し、過労のため健康を害しており、このことが右成績の評価に不利に影響していることが窺われるから、同短大を卒業し専従者となつた昭和三二年下期の考課を評点零とみなすことが原告にとつて有利な取扱いであつたとは、必ずしも断定できない。
 (二)
 〔中略〕
 (イ)昭和三〇年七月前記「B誌」四七号に「安全週間に思う」を投稿したことによつて、原告は、工務部長、C勤労兼厚生課長ら会社幹部の注目するところとなり、(ロ)右「B誌」四七号掲載の記事に関し当時上司である機械課長Dが原告に対し組合活動などしないでスポーツをやれと注意したこと、(ハ)同年一一月原告が予防保全点検から工務室に配転になつた当時も右D課長から組合運動に熱意をそそぎ過る旨の注意を受けていること、
 (ニ)原告は昭和三一年一月に男子従業員寄宿舎自治会長、同年七月から年末まで同副会長に就任したが、その間原告主張のような事項(第二、三、3(七)記載)について会社側と活溌に交渉するとともに、かような活動についても組合と連繋する必要があることを強調し、C課長ら会社職制から注目警戒されていたことが認められる。
 (三)前記認定のとおり原告が終始熱心に組合活動を行つていたこと、とくに八代支部から推されて組合中央執行委員(教宣部長)に選ばれた経歴、声望からすれば、原告が将来専従を解かれ職場に復帰した場合支部組合員に対し相当な指導影響力を有するであろうことは当然予期し得べきことであり、右事実に上記(一)、(二)で認定した事情を考え合わせると、本件解雇は、人員整理に藉口するものであつて、その実は原告の組合活動を理由とするものであると認めるのが相当である。
 4 してみれば、本件解雇は原告の組合活動を嫌悪し、これを企業外に排除しようとするものであつて、不当労働行為として無効であると言わなければならない。