全 情 報

ID番号 05438
事件名 就業規則無効確認等請求事件
いわゆる事件名 広島荷役事件
争点
事案概要  労災事故を減少させることを理由としてなされた定年年齢を六〇歳から五五歳に引き下げる就業規則の改正につき、合理性は認められないとされた事例。
参照法条 労働基準法93条
体系項目 就業規則(民事) / 就業規則の法的性質・意義・就業規則の成立
就業規則(民事) / 就業規則の一方的不利益変更 / 定年制
裁判年月日 1987年5月20日
裁判所名 広島地
裁判形式 判決
事件番号 昭和60年 (ワ) 1317 
裁判結果 一部認容,一部棄却
出典 労働民例集39巻6号609頁
審級関係 控訴審/04046/広島高/昭63.11.22/昭和62年(ネ)167号
評釈論文
判決理由 〔就業規則-就業規則の法的性質〕
 右によれば、原告につきその定年は、旧規則では、満六〇才であつたところ、新規則によれば原告については満五七才と短縮されることとなりこれは労働者である原告に不利益な変更といわなければならない。
 右のように、使用者が就業規則の変更によつて、労働者に不利益な労働条件を課することは、原則として許されないが、当該規則条項が合理的なものであるかぎり、個々の労働者において、これに同意しないことを理由として、その適用を拒むことは許されないと解されるところであり、そしてその合理性については、使用者において主張立証すべきものと解すべきである。
〔就業規則-就業規則の一方的不利益変更-定年制〕
 〔中略〕被告会社においては、五五才以上の労災事故の発生率が低年令層に比して高率である。しかし、〔中略〕これには日雇を含んでいる数字であり、事故発生はむしろ日雇に多いものと認められる。そして前示のとおり日雇については、定年制の適用がなく、被告会社も新規則制定後も、日雇は五五才を超える者をも雇い入れざるを得ない実情にある。したがつて右の点において、すでに被告の意図した労災事故の減少という目的に副うものであるかについて十分でない点がある。
 2 前記によれば、被告会社の人件費率が会社の目標より高騰化していることが明らかであるが、もともと被告の就業規則の変更は労働災害率の悪化を防止することにその目的があり、右短縮による果していかなる改善があるかについては、これを認めるに足りる証拠はない。また被告会社が労災事故の改善の外に、経営改善のために、定年の短縮を行なわなければならないほどの業績が悪化したとの点についてはこれを認めるに足りる証拠はない。
 3 被告会社の前記労務の特殊性については、作業職については妥当するが、原告のような事務職については妥当しないものと判断せざるを得ず、また労災事故の発生についても前記殆んどが労務職によるものであつて、事務職のみについては、その統計がない。したがつて、事務職について定年の短縮により、労災事故率が低下するか否かについては不明というほかない。
 以上を綜合して考えると、新規則については、二年間の経過措置の定めがあり、定年後に再雇用の途があることを考慮しても作業職についてはともかく、原告の如き事務職において定年を短縮することには、直ちに合理性があると断定することはできず、新規則について異議を述べている原告(原告本人尋問の結果により認める)に対して、合理性があるとして新規則を適用することは許されないものというほかはない。