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ID番号 05449
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名
争点
事案概要  進学塾講師の競業避止義務違反を理由とする損害賠償請求につき、年度途中に講師陣の大半を勧誘して退職し、職務上入手した情報に基づいて生徒を勧誘し、新たに設立した進学塾に入学させたものであるとして、右請求が一部認容された事例。
参照法条 民法415条
労働基準法89条
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 競業避止義務
裁判年月日 1990年4月17日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和61年 (ワ) 12320 
裁判結果 一部認容,一部棄却
出典 時報1369号112頁/労働判例581号70頁
審級関係
評釈論文 土田道夫・ジュリスト995号114~115頁1992年2月15日/藤岡康宏・判例タイムズ757号69~75頁1991年8月1日
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-競業避止義務〕
 しかして、右認定事実に弁論の全趣旨を併せて考えると、年度の途中で事前に十分な余裕がないまま講師陣の大半が辞任すれば、進学塾の経営者がこれに代わるべき講師の確保に苦慮することとなり、生徒に大きな動揺を与え、相当数の生徒が当該進学塾をやめるという事態を招来しかねないというべきところ、被告らの右行為は、一方でA会場で会員(生徒)の教育・指導に当たっていた従業員及び講師の大半の者が、原告においてその代替要員を十分確保する時間的余裕を与えないまま一斉に退職するに至ったという事態を招来させたものであり、他方では原告の従業員として職務を行っていた際に職務上入手した情報に基づき、A会場の会員(生徒)中約二二〇名に対し、その住所に書面を送付してB進学研究会への入会を勧誘して、一二五名を入会させるに至ったものであって、原告の前記就業規則上の競業避止義務に違反したものであり、連帯しての損害賠償債務を負うものといわなければならない。
 このような被告らの行為に照らすと、被告らの抗弁は主張自体失当であるというほかない。
 三 損害について 1
 〔中略〕
 被告らの右競業避止義務違反によってA会場をやめるに至った会員(生徒)の数は一二五名であるというべきである。当時右人数を超える会員(生徒)が原告をやめた事実自体は否定できないものの、右会員らが原告をやめたことと被告らの右競業避止義務違反との間に相当因果関係があることを認めるに足りる証拠はない。
 2 また、昭和六一年六月当時原告が進学塾の業界において確固不動の地位を占め、生徒の間で揺るぎのない信用を得ていたことを認めるに足りる証拠はなく、原告に通学していた生徒らがいかなる動機ないし理由で原告を選択したかが証拠上必ずしも明らかではなく、A会場の地理的な要因だけで説明することはできないというほかない。ところで、進学塾についてはその間で競争が激しく、長期間にわたって生徒数が安定することを期待し得ない(この事実は弁論の全趣旨により認める。)から、業界において確固不動の地位を占めているような塾は別として、その逸失利益を算定する際には慎重にこれを行うべきである。他方原告としても一定期間の余裕があれば被告Y1及び取下前被告Y2外五名に代替する講師を確保し、正常な業務を回復してしかるべきである。
 〔中略〕
 被告らの前記競業避止義務違反による原告の逸失利益は、原告に対し昭和六一年六月ないし八月に退塾届けを提出した合計一一七名について、
 〔中略〕
 昭和六一年度の夏期講習及び九月ないし一一月の期間中の授業料に相当する金額の限度で収入を金一二五五万六〇〇〇円と試算し、これから必要経費を控除することにより得られる利益率が三〇パーセントであるとして原告の逸失利益を算定すると、その金額は金三七六万六八〇〇円となる。