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ID番号 05465
事件名 退職金及び未払賃金請求事件
いわゆる事件名 中部日本広告社事件
争点
事案概要  広告代理業を営む会社における「退職後六カ月以内に同業他社に就職した場合には退職金は支給されない」との規定につき、右規定は労働の対償である退職金を失わせることを相当とする顕著な背信性が認められる場合に限られるとされた事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法89条1項3の2号
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 競業避止義務
賃金(民事) / 退職金 / 競業避止と退職金
裁判年月日 1990年8月31日
裁判所名 名古屋高
裁判形式 判決
事件番号 平成1年 (ネ) 386 
平成1年 (ネ) 435 
裁判結果 一部変更,一部棄却(上告)
出典 高裁民集43巻2号125頁/労働民例集41巻4号656頁/時報1368号130頁/タイムズ745号150頁/労働判例569号37頁
審級関係 一審/04778/名古屋地/平 1. 6.26/昭和61年(ワ)3524号
評釈論文 岡田健・平成3年度主要民事判例解説〔判例タイムズ臨時増刊790〕304~305頁1992年9月/山口浩一郎・ジュリスト991号134~137頁1991年12月1日/山崎文夫・季刊労働法158号195~196頁1991年2月/手塚和彰・判例評論391〔判例時報1388〕213~218頁1991年9月1日/西村健一郎・民商法雑誌106巻3号356~364頁1992年6月/藤原稔弘・季刊労働法159号100~105頁1991年5月/道幸哲也・法学セミナー36巻12号133頁1991年12月
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-競業避止義務〕
〔賃金-退職金-競業避止と退職金〕
 そして、本件不支給条項は、前記のように第一審被告の就業規則を介して第一審原告との労働契約の内容となっているものであり、この事実に、右判示を併せ考えると、同条項がおよそ無効であるということはできず、同条項の働く場合には労働基準法二四条の定める賃金全額払の原則の適用はないものというべきである。右判示に反する第一審原告の主張は採用できない。
 しかしながら、本件退職金(前記2の(五)によるものを除く。)が以上のように、継続した労働の対償である賃金の性質を有すること(功労報奨的性格をも有することは、このことと矛盾するものでないことは、前記のとおりである。)本件不支給条項が退職金の減額にとどまらず全額の不支給を定めたものであって、退職従業員の職業選択の自由に重大な制限を加える結果となる極めて厳しいものであることを考慮すると、本件不支給条項に基づいて、前記2の(一)から(四)までの支給額を支給しないことが許容されるのは、同規定の表面上の文言にかかわらず、単に退職従業員が競業関係に立つ業務に六か月以内に携わったというのみでは足りず、退職従業員に、前記のような労働の対償を失わせることが相当であると考えられるような第一審被告に対する顕著な背信性がある場合に限ると解するのが相当である。すなわち、退職従業員は、第一審被告に対し本件退職金の請求権を、右のような背信的事情の発生を解除条件として有することになるものと解される。いわば、このような限定を付されたものとして、本件不支給条項は有効であるというべきである(この判示は、第一審被告が当審で付加した主張(5)の趣旨にもある意味で合致するものといえよう。)このように解することが、本件支給規定の中にあって本件不支給条項と同様に不支給を規定しているのが懲戒解雇の場合であることとも整合性を有するものと考えられる。そして、このような背信性の存在を判断するに当たっては、第一審被告にとっての本件不支給条項の必要性、退職従業員の退職に至る経緯、退職の目的、退職従業員が競業関係に立つ業務に従事したことによって第一審被告の被った損害などの諸般の事情を総合的に考慮すべきである。