全 情 報

ID番号 05469
事件名 退職金等請求事件
いわゆる事件名 サンレイシッピング事件
争点
事案概要  本件労働契約は合意解約されており、その後における懲戒解雇はありえないとし、退職金の支給について、「会社都合による解雇」の請求に対し、「自己都合退職」の場合の支給基準で支払われるべきものとされた事例。
 賞与の支払請求につき、会社による査定、決定を経ずして具体的に発生するものではないとされた事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法89条1項3の2号
労働基準法89条1項9号
体系項目 賃金(民事) / 賞与・ボーナス・一時金 / 賞与請求権
賃金(民事) / 退職金 / 退職金請求権および支給規程の解釈・計算
退職 / 合意解約
裁判年月日 1990年9月17日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成1年 (ワ) 12917 
裁判結果 一部認容,一部棄却
出典 労働判例568号31頁/労経速報1409号13頁
審級関係
評釈論文 水町勇一郎・ジュリスト992号143~146頁1991年12月15日
判決理由 〔退職-合意解約〕
 原告は、既に、被告会社に残って勤務を継続したいという雇用関係継続の意思を有せず、その前提で行動していたものと考えざるをえない。こうした原告の言動に対応させて考えれば、被告代表者の当時の意思内容として認定し得るのは、前記の限度にとどまり、被告代表者が原告の意思いかんにかかわりなく、原告との雇用関係を一方的に解消しようと決定したことまでを認めることはできず、さらに、その言動についてみても、平成元年六月二九日当時においては、被告代表者が原告との雇用関係を解消しようとする意思を表現したと認めることのできる事情は何もない。認定し得る前記の事実だけで、解雇の意思とその表示があったとすることができないのはもちろんであり、他にも、被告代表者が、原告の意思いかんにかかわらず、原告との雇用関係を一方的に解消しようとする意思を確定的にしてこれを表現したと認めるに足りる証拠はないから、結局、被告代表者から原告に対して解雇の黙示的意思表示がなされたものと断ずることはできない。
 そうすると、被告から解雇されたことを前提とする原告の請求は理由がない。
〔賃金-退職金-退職金請求権および支給規程の解釈・計算〕
 3 しかして、一方、原告は、平成元年六月二九日の話合いの際には既に、被告会社に残って勤務を継続したいという意思を有せず、その前提で行動していたもので、他方、被告代表者も、原告との雇用関係の継続について消極的であったことは前記のとおりであり、平成元年六月二九日以来、被告会社代表者が原告による決算書類の持ち出しに激怒して原告を懲戒解雇にすると言うようになった平成元年七月二七、二八日までの間は、原被告ともに、当初約した勤務の終期である同月二〇日又は原告の担当業務の引き継ぎの行われた同月二一日における原被告間の雇用関係の終了を前提として終始行動していたことが明白であって、このような客観的状況に照らすと、原被告間の雇用契約関係は、同月二一日限り原被告相互の了解の下に解消されたものと解するのが相当であり、法律上は、右雇用契約は平成元年七月二一日限り合意解約されたものとみるのが相当である。
 4 被告は、原告を懲戒解雇にしたから被告には退職金支払義務がないと主張するところ、その懲戒解雇が前記のいずれの解雇通告を指すのか不明であるが、被告代表者本人が出した(証拠略)の通告(それ自体に、平成元年七月二七日の出来事を理由に同月二一日付けで解雇するという矛盾のある点や、被告自身が(証拠略)の内容証明郵便による通知でこれを撤回している点は措く。)にせよ、(証拠略)の通告にせよ、いずれも既に原被告間の雇用関係の終了した後になされた意思表示であるから、法律上無意味なものというべきことはもちろんであり、他にも前記雇用関係終了前に懲戒解雇の意思表示がなされたことを認めるに足りる証拠はない。
 5 してみれば、平成元年七月二一日をもって被告会社を退職した原告には、その余の点について判断するまでもなく、被告会社退職金規程別表(4)の係数五・六による退職金一三二万七二〇〇円及びこれに対する平成元年八月二一日からの年五分の遅延損害金の支払請求権がある。
〔賃金-賞与・ボーナス・一時金-賞与請求権〕
 (賞与請求について)
 第一回原告本人尋問の結果によれば、昭和六三年夏期の賞与は、被告会社の業績が悪かったことを理由として支給されなかったことが認められる。原告は、同尋問において、業績が悪かったとはいえ例年の決算状況と対比すると自分としては少しは賞与が出るのではないかという期待感があったとか、当時の業績からみて一か月分くらいは支給されてしかるべきだと供述するけれども、被告会社の「賞与金規程」〔中略〕
 賞与は従業員の業績を報償する目的で支給するものとされ、その支給額は、被告会社の業績、経理状況等を勘案の上その都度決定されるもので、各従業員に対する支給額は支給対象期間中のその者の勤務状況、被告会社に対する貢献度等を勘案して査定するものとされており、被告会社による査定、決定を経ずして具体的に発生するものではないことが明らかであって、具体的賞与請求権の発生を肯定し得る事実は、これを認めるに足りない。