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ID番号 05470
事件名 雇用契約関係確認等請求事件
いわゆる事件名 丸果加古川青果事件
争点
事案概要  一斉欠勤に対し懲戒解雇の意思表示がなされたのに対し、「自分が責任をとって辞める」旨の申出によりこれに使用者が同意しており、合意解約が成立しているとされた事例。
参照法条 労働基準法2章
体系項目 退職 / 合意解約
裁判年月日 1990年9月17日
裁判所名 神戸地姫路支
裁判形式 判決
事件番号 昭和63年 (ワ) 31 
裁判結果 棄却
出典 労働判例572号81頁/労働経済判例速報1414号3頁
審級関係
評釈論文 道幸哲也・法学セミナー36巻7号121頁1991年7月
判決理由 〔退職-合意解約〕
 〔中略〕
 被告の業務に支障の出ることの明らかな本件一斉欠勤を確たる具体的な目的も計画もないまま突如として敢行した原告は、その参加者に対する懲戒処分が現実化するに及び、首謀者であるうえ会社における自らの地位等をも考慮し、自分が退職して一人で責任をとろうと決心し、本件一斉欠勤日の二日後の昭和六二年一一月九日、自分に懲戒解雇処分の告知あることを十分予測しながら社長室に入り、間もなく懲戒解雇処分を告知した社長に対して右決心を述べたところ、これに感銘を受けた社長から、「自己都合による退職に変更してもよい。」旨を提案されてこれを応諾したものと認むべきであって、そうすると、右応諾の時点において原被告間に原告の雇用契約解除の合意が成立したものというべきである。
 もっとも、原告は、「従業員のする退職の意思表示は真摯になされたものでなければその効力がないところ、原告の本件退職の意思表示は自由になされたものといえないから、その効力は否定されるべきである。懲戒解雇されると信じ、懲戒解雇を避けるため退職の申入れをした場合も、真摯な退職の意思表示といえないから、この点においても、原告の本件退職の意思表示は効力のないものである。」と主張し、右合意解除の効力を争っている。
 しかし、前判示のとおり、被告が原告に対して懲戒解雇処分を告知したのは、本件一斉欠勤の日から二日経過した昭和六二年一一月九日であり、その間に、原告は被告から本件一斉欠勤について弁解の機会を与えられていた一方、被告は既に同月七日(本件一斉欠勤当日)の午後に懲戒審査委員会の答申を経て現実に原告はじめ本件一斉欠勤参加全員の懲戒処分を決定していたものであり、また、原告自身も同日午後に懲戒審査委員会が開催されることを事前に了知していたばかりでなく、同月八日、既にA本部長から内々に自己に対する懲戒解雇処分の決定を聞知していたものであって、これら諸事情に、前判示の、原告が従業員として置かれている立場(係長であること等)及び本件一斉欠勤についての首謀者的役割などをも考え合せると、原告において自分に対して他の本件一斉欠勤参加者に比し最も重い処分(懲戒解雇処分)が下ってもやむを得ないことを事前に十分予測できたところであろうし、しかも、右処分の告知までの間、原告がその対応策を検討するのに十分な時間的余裕があったものというべく(実際、原告が事前に退職も余儀ないものと十分覚悟していたことは、前判示認定のとおりである)、なおまた、諸般の事情に徴すると、被告の就業規則の諸規定にてらし原告に対する本件懲戒解雇が強ち不合理かつ不公正極まるものともにわかに断じ難いものであってみれば、原告が前記合意解除を承知したことには、相応の合理性・合目的性がみられ、時間的経緯にてらし被告の采配等に関係なく原告の自由な意思に基づいてなされたものというべく、しかも、ありえない懲戒解雇処分を事前に回避する意図の下に右合意解除を承知したものとも到底いい難いから、原告の前記主張は、採用することができない。
 そして、原被告間に、要式行為でもない雇用契約解除の合意が一旦成立した以上、その効力を否認すべき法律上の事由について何らの主張立証もない本件においては、右合意によって、原被告間の雇用契約は終了したものといわなければならない。