全 情 報

ID番号 05474
事件名 年次有給休暇請求権存在確認請求事件
いわゆる事件名 東京芝浦食肉事業公社事件
争点
事案概要  労働基準法三九条一項の「継続勤務」の意義につき、定年後嘱託となった場合は勤務の態様に着目して判断すべきであるが、本件では月一八日間勤務の非常勤の嘱託職員になったもので、継続勤務には該当しないとされた事例。
参照法条 労働基準法39条1項
体系項目 年休(民事) / 年休の成立要件 / 継続勤務
裁判年月日 1990年9月25日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和60年 (行ウ) 145 
昭和62年 (行ウ) 67 
裁判結果 棄却
出典 労働判例569号28頁/労経速報1407号3頁/判例地方自治80号34頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔年休-年休の成立要件-継続勤務〕
 ところで、労働基準法三九条にいう「継続勤務」に該当するか否かは、有給休暇制度の趣旨が労働者を労働から解放することによって心身の疲労を回復させ、また文化的生活を確保させることにより、より質の高い労働力の継続的提供を可能ならしめることにあることからすると、形式的に労働者としての身分や労働契約の期間が継続しているかどうかによって勤務が継続しているかどうかを決すべきではなく、実質的に労働者としての勤務関係が継続しているかどうかにより決すべきものである。
 したがって、本件においても、原告らは正規の職員として勤務した後、翌日から嘱託員として採用され、同一の当事者間に勤務関係が接続して存在していることは明らかであり、しかも仕事の内容も正規職員としてのそれと嘱託員としてのそれとの間には前記事実からすれば大差はないというべきであることからすれば、一旦は条例の定めにより正式な退職手続が取られているとか、常勤の正規職員であったものが非常勤の嘱託員として新たな手続により再採用されているという形式的あるいは手続的なことのみによっては、継続勤務に該当しないとすることはできず、かえって、勤務状況に実質的な変更がないのであれば、継続勤務に該当すると解すべきである。
 しかしながら、実質的勤務状況の上で、正規職員であった時と嘱託員となった後との間に、後者のほうが勤務の態様が著しく軽いというような差異がある場合、例えば勤務日数が大幅に減少したという場合にも継続勤務に該当し有給休暇日数が増加するとすることは、特に年次有給休暇の比例付与が条文上明らかにされていなかった昭和六二年法律第九九号による改正前の労働基準法のもとにおいては、前記年次有給休暇制度の趣旨からしても相当ではなく、むしろ右趣旨からすれば所定勤務日数が大幅に減少したような場合には、有給休暇の日数も減少すると解するほうが妥当であり、また、それが従前の所定労働日数の下でのみ有給休暇を与えられるにすぎない正規職員との間の公平にも適合するというべきである。このことは、例えば、週の所定勤務日数が六日であった正規職員が嘱託員に再採用されて週の所定勤務日数がその半分の三日に減少したような場合を考えれば明らかであって、かかる場合は、正規職員と嘱託員との間の勤務関係は実質的には別個であって、両者の間には勤務の継続はなく、勤務年数の通算もないと解するのが相当である。
 本件についてこれをみるに、原告らは、正規職員当時は週六日勤務していたが、嘱託員としての再採用によって月一八日間(週四日相当)のみ勤務すれば足りることになったもので、勤務日数は大幅に減少したものという他はないから、右に述べた理由により、正規職員であった時と嘱託員となった後との間には継続勤務の関係はないと解するのが相当である。
 したがって、原告らについては、仮に、嘱託員として再採用された後の労働関係についても右改正前の労働基準法三九条が適用になると解しても(昭和六三年四月一日以後は改正後の労働基準法三九条が適用されることは明らかである。)、有給休暇日数については、正規職員であった時の年数は通算されず、また、正規職員当時有していた未消化の有給休暇日数も、原告らの定年退職により消滅し、嘱託員としての有給休暇に繰り越されることもない解(ママ)ますべきである。
 また、原告らは、正規職員であった当時は、採用一年目から年二〇日の有給休暇を与えられるなど、労働基準法の基準を上回る有給休暇を与えられていたが、この法定外の有給休暇も原告と被告との労働契約の内容となっていたものであるから、右法定外の有給休暇も正規職員と嘱託員との間に労働基準法三九条にいう勤務の継続という関係があれば嘱託員としての労働関係に引き継がれるものであり、仮に、引き継がれないとしても、嘱託員としての再採用は労働契約の一部更改であり、労働日や賃金等合意があった範囲でのみ契約が更改され、合意のない部分については正規職員としての契約内容が維持されている旨主張する。
 しかしながら、公務員の採用を労働契約であると解すべきであるか否かはともかく、正規職員としての勤務と嘱託員としてのそれとの間には労働基準法三九条に定める勤務の継続という関係が存在しないことは前述のとおりであり、また、正規職員としての採用及びその定年退職と、嘱託員としての再採用は全く異なる法律関係であるから、新たなる合意なくして前者の勤務条件が後者の勤務条件となることはない(この点は、労働基準法上の有給休暇付与の要件としての勤務の継続が認められるからといって、契約内容も引き継がれることにはならないことからも明らかである。)と解すべきである。さらに、正規職員を定年退職したものは当然に嘱託員として再採用されるものではないことは前記要綱から明らかであるので、労働契約の更改とも解されない。
 したがって、原告らの右主張も理由がない。