全 情 報

ID番号 05477
事件名 地位確認等請求事件不等利得返還等請求事件
いわゆる事件名 松下通信工業ほか事件
争点
事案概要  Y1会社に雇用され、Y2会社に出向し、Y3会社で仕事をしている労働者の場合につき、Y3会社との間の黙示の雇用契約は成立していないとし、またY1会社がY2会社から取得した金員と労働者に支払った金員との差額、Y2会社がY3会社から取得した金員とAに対して支払った金員との差額が不当利得にならないとされた事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法6条
民法703条
職業安定法44条
体系項目 労基法の基本原則(民事) / 労働者 / 委任・請負と労働契約
労基法の基本原則(民事) / 中間搾取
配転・出向・転籍・派遣 / 出向中の労働関係
裁判年月日 1990年9月28日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和59年 (ワ) 13089 
昭和63年 (ワ) 15878 
裁判結果 棄却(控訴)
出典 時報1373号137頁/労働判例570号6頁/労経速報1407号18頁
審級関係 控訴審/05818/東京高/平 3.10.29/平成2年(ネ)3509号
評釈論文 中山和久・判例評論392〔判例時報1391〕229~233頁1991年10月1日
判決理由 〔労基法の基本原則-労働者-委任・請負と労働契約〕
〔労基法の基本原則-中間搾取〕
 以上のとおり、原告と被告Y1会社との間には当事者を明確にした雇用契約が締結され、昭和五七年八月一一日付けの契約書が作成されていること、しかも、原告は、その約一年後には、同被告との間での待遇の交渉を経て、右雇用契約を更新し、再び明確な雇用契約書を被告Y1会社との間で取り交していること、原告は、全期間を通じて、継続的に同被告から賃金の支払を受けていること、被告らは、相互に事業内容を異にする独立した法人であって、被告Y1会社と被告Y2会社との間には出向契約が、被告Y2会社と被告Y3会社との間には請負名目の契約が、それぞれ締結されており、それが形だけのものであるとはいえないこと、当時の原告自身の意識としても、被告Y3会社の従業員としてその組織内に組み込まれたとまでは考えておらず、昭和五九年五月の段階においても、仕事上の事故等に関する保障の問題などについての身分上の不安定を解消したいとして、被告Y1会社に対して、賃上げのみならず、正社員とすることを要求してみたり、被告Y2会社に対して、同被告との雇用契約の締結を求めてみたりしていること、被告Y1会社としても、右のような正社員としてほしいとする要求や賃金引上げなどの待遇の問題について終始雇用主たる立場で応対していることなどの事情に鑑みると、原告が被告Y1会社との雇用契約締結時から専ら被告Y3会社で働き、具体的な作業の指示を同被告の技師らから受けていたとしても、同被告との間に黙示の雇用契約が成立したとはいえないことが明らかである。
〔配転・出向・転籍・派遣-出向中の労働関係〕
 不当利得の成否について
 原告が被告Y2会社及び被告Y1会社に対し「争点」欄記載のような不当利得返還請求をなし得るためには、右各被告が「法律上の原因なくして原告の財産又は労務により利益を受け、これがために原告に損失を及ぼした場合」であることを要するところ、本件全証拠によっても原告に右損失の生じた事実を認めることはできない。
 すなわち、原告は、原告が被告Y3会社の各工場で提供した労務をもって損失と主張するが、前記のとおり、原告は、当初は一時間一一五○円の、昭和五八年六月からは一時間一三六○円の単価による前記時間給賃金を被告Y1会社との合意によって自らの労務の対価と定め、右対価としての賃金を受領しているのであって、原告の労務は、右雇用契約に基づいて前記時間給賃金の対価として提供されたものであるから、不当利得返還請求の根拠となる損失とはなり得ないというべきである。原告は、あるいは、被告Y3会社が原告の労務に関連して被告Y2会社に支払った金員が原告の労務の対価相当額であると考えるものかもしれないが〔中略〕
 同被告が被告Y2会社との間で決定した右支払額の算定方法は、原告の提供する労務自体を直接評価した結果ではなく、被告Y2会社に委託した業務としての評価の結果であることが認められるから、右支払額をもって不当利得返還請求の根拠となる損失額と考える余地はない。
 加えて、本件においては、被告Y1会社の利得及び被告Y2会社の利得に関して法律上の原因を欠くものということもできない。
 すなわち、被告Y1会社が被告Y2会社から取得した金員は、右各被告間の出向契約に基づく出向料として支払われたものであり、また、被告Y2会社が被告Y3会社から取得した金員は、右各被告間の請負名目の契約上の対価として支払われたものであって、被告らが相互に事業内容を異にする独立した法人であって、右出向契約及び請負名目の契約がいずれも形だけのものであるとはいえないことは、前記認定のとおりである。被告Y3会社と被告Y2会社との間の契約の法的性格が請負契約というべきものか、それとも準委任契約等の請負とは別種の契約であるかは措き、いずれにせよ、それが法律上の原因となることは疑いの余地がない。原告は、右各契約について、職業安定法四四条、同法施行規則四条一項及び労働基準法六条に違反するから無効であると解すべきである旨主張するが、仮に、右各契約が右各法条に違反しているとしても、そのことのみによって右各契約が無効となるものではない。