全 情 報

ID番号 05484
事件名 賃金支払請求事件
いわゆる事件名 新清社事件
争点
事案概要  労働組合間の対立により一方組合の組合の就労が不能となった場合の賃金支払義務につき、本件では使用者の責に帰すべき事由によって履行不能となったとはいえないとされた事例。
参照法条 労働基準法24条
民法536条2項
体系項目 賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / 組合間紛争による不就労
裁判年月日 1990年10月16日
裁判所名 横浜地
裁判形式 判決
事件番号 昭和60年 (ワ) 2943 
裁判結果 棄却
出典 労働判例572号48頁/労経速報1415号3頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔賃金-賃金請求権の発生-組合間紛争による不就労〕
 雇用契約は、労働者の労務提供と使用者の報酬支払をその基本内容とする契約であるが、労働者は使用者の指定した場合に配置され、使用者の供給する設備、器具等を用いて使用者の指揮下で労務の提供を行うものであるから、使用者は、信義則上、労働者の労務の提供あるいはその準備行為の安全を確保するよう配慮すべき義務を負うものというべきである。そして、使用者が右義務を尽くさないために労働者が労務の提供及びその準備行為をするについて生命・身体への危険が生じ、労務の提供をすることが社会的にみて著しく困難である場合には、労働者の労務供給義務は、使用者の責に帰すべき事由により不能となったものと解すべきである。
 これを本件についてみると、前認定の事実関係においては、原告らの昭和五九年一○月一日から同年一二月一○日までの不就労は、支部員らの暴力による危険を回避するためというよりは、配車問題に対する抗議としてなされたというべきものであるから、右期間の不就労をもって被告の責に帰すべき事由による労務供給義務の履行不能ということはできない。
 また、同月一一日における暴力沙汰も、専ら支部員らによる一方的な暴行というよりは、従前から原告らと支部員らの間で繰り返されてきた小競り合いと同様に双方の行為によって生じたとみるべきものであり、原告らが実力で新乗務体制に反対することがなければ支部員らもあえて実力行使に出ることはなかったものと思われるから、このような場合にまで被告が原告らに対して支部員らの暴力行為をやめさせるべき雇用契約上の義務を負うものとは解されない。従って、同日以後の原告らの不就労も、債務者の責に帰すべき事由による労務供給義務の履行不能ということはできない。