全 情 報

ID番号 05506
事件名 退職金請求事件
いわゆる事件名 日電理化硝子事件
争点
事案概要  医療用硝子器具等の製造・販売を目的とする会社で販売活動の中心的人物であった者が退職して退職金を請求したのに対して、会社が競業会社に入社したから懲戒解雇をした等として支払いを拒否したため退職金を請求して訴えた事例。
参照法条 労働基準法2章
体系項目 退職 / 退職願 / 退職願いの撤回
裁判年月日 1991年1月29日
裁判所名 神戸地
裁判形式 判決
事件番号 平成1年 (ワ) 330 
裁判結果 認容
出典 労働判例582号47頁/労経速報1430号21頁
審級関係
評釈論文 古殿宣敬・労働法律旬報1259号52~56頁1991年3月10日
判決理由 〔退職-退職願-退職願いの撤回〕
 原告は、昭和六三年九月頃から上司であるAに被告会社を退職したい旨表明していたが、同年一一月一九日、秋山を通じて同年一二月二〇日を以て退職する旨の退職願を提出したこと、これに対し被告会社は、原告が第一営業部における販売活動の中心的人物であることから、右退職届を返還する等してその翻意に努めたこと、ところで原告の退職の意思は固く、右退職につき被告会社の理解が得られないので、止むなく昭和六三年一二月九日付内容証明郵便により、その頃被告会社に到達した書面で右退職の意思に変りがない旨通知し、右二〇日には会社内及び元社長宅等への退職の挨拶回りをしたこと、しかしながら被告会社の経営陣としては、なんとか原告の退職を阻止ないしその復帰を図りたいとの考えを依然として有していたことから、昭和六三年一二月二〇日、とりあえず、原告に対しては業務引継のためとして、また右引継が終了した後は休暇を承認するとのことで、昭和六四年(平成元年)一月二〇日までの一ケ月間の出社を求めたこと、その申出を受けた原告も、被告会社からの円満退社のためにこれを承諾したが、被告会社から前記認定のとおり受け取った前記第二営業部・開発室・室長を命ずる辞令は、仔細に検討すると、原告が出社を承諾した趣旨と異なることが明かであったし、また前記給与辞令は、何等正当の事由もないのに降格を理由とする減給を内容とするものであったので、その直ぐ後で被告会社に返還し、また右辞令を前提とする後記国内留学を命じる辞令は平成元年一月二〇日限り退職する趣旨と理解してこれを無視したこと、そこで原告は、右約定に従って年内は昭和六三年一二月二一日から同月二九日までの間、翌六四年(平成元年)一月には、年始の行事が行われた同月五日の他は九日、一〇日のみ出勤して業務の引継書の作成等に当り、それが終了した同月一一日から同月一九日にまでは休暇を取ったこと、そして、原告は、同月二〇日の朝には、最終的に被告会社を退職する旨の挨拶をし、これに対して部下や同僚たちは、同日の晩に送別会を挙行して原告を送別したこと、被告会社は、昭和六三年一二月二一日付で原告に対する年末賞与の支払をしたが、通常、従業員に対する賃金等の支払の合計処理としては異例の仮払金名義で支給したこと、原告は神戸市内にある本社において勤務してきたが、被告会社が辞令を発した第二営業部は伊丹市内の工場にあるのにかかわらず、原告に対して伊丹工場への勤務を命じたこともなかったし、原告に対する第二営業部の仕事の引継もなかったこと、前記無給の国内留学辞令は、被告会社が原告に対して業務命令を発するについての就業規則等の根拠がなく、原告に対しそれがどういうものであるかについて具体的な説明もなかったことが認められる。
 〔中略〕
 原告が被告会社との間で締結していた本件雇用契約は、本件退職の意思表示により昭和六三年一二月二〇日に一応終了し、労働給付の内容が業務の引継に限定された、右契約とは異なる形態での期間を一ケ月とする臨時的雇用契約が新たに締結されたものと解するのが相当であり、前記降格辞令、無給の国内留学辞令等は格別効力を有しないものと解される。
 従って、〔中略〕
 前記1に判示した事実をもってしても到底原告が本件退職の意思表示を撤回したものと推認することはできない。