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ID番号 05516
事件名 損害賠償等請求事件
いわゆる事件名 クレジット債権管理組合事件
争点
事案概要  使用者が、他の従業員の面前で元取締役の不正行為に加担した旨発言し、右不正行為への加担を前提として自宅待機命令、出勤停止処分、東京事務所への配転命令を行い、そのためやむをえず退職せざるをえなくなったとして、右従業員が損害賠償とともに自己都合退職ではなく業務上の都合による解雇であるとしてそれに見合う退職金相当額の損害賠償を請求した事例。
参照法条 労働基準法11条
労働基準法2章
労働基準法3章
民法627条1項
民法627条2項
体系項目 賃金(民事) / 退職金 / 退職金請求権および支給規程の解釈・計算
労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 業務命令
就業規則(民事) / 就業規則の一方的不利益変更 / 退職金
退職 / 任意退職
賃金(民事) / 退職金 / 退職金の支給時期
労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 使用者に対する労災以外の損害賠償
裁判年月日 1991年2月13日
裁判所名 福岡地
裁判形式 判決
事件番号 昭和62年 (ワ) 3334 
平成2年 (ワ) 1359 
裁判結果 一部認容,一部棄却
出典 労働民例集42巻1号83頁/タイムズ773号186頁/労働判例582号25頁/労経速報1436号18頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-業務命令〕
 右認定事実に、前記認定の本件自宅待機命令は原告らにAの横領事件への関与の疑いがあり、原告らがグアム旅行中に証拠湮滅工作をすることを防止するためになされたものであることをあわせ考えると、被告組合の業務執行者である被告会社の代表取締役Bがした本件業務命令は、真に原告らに東京研修を受けさせる目的の下になされたというよりも、原告らがAらの横領事件に関与していると疑っていた被告会社が、さしたる根拠もないのに憶測に基づき、原告らをE事務所から排除し、原告らが横領事件に関与しているかどうかを調査する目的の下にしたものであると認定するのが相当である。
 そうすると、本件業務命令は、被告会社がその業務命令権を濫用してした違法なものというべきである。
〔労働契約-労働契約上の権利義務-使用者に対する労災以外の損害賠償〕
 以上によれば、被告会社は、民法上の組合たる被告組合の業務執行者であるところ、被告会社代表取締役Bは、本件自宅待機命令、本件業務命令及びその後の各業務命令を発し、原告らの退職を余儀なくさせたものであり、右について少なくとも過失があったというべきであるから、原告らの後記5の損害を賠償すべきである。
 慰謝料額
 原告らの各本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告X1は、失業保険を一か月支給され、昭和六二年二月二三日にC会社に就職したこと、原告X2は、昭和六一年一二月一日にD株式会社に就職したことが認められる。右認定の事情の他、前記認定の原告らの被告組合における在職期間、自宅待機を含む数回に及ぶ違法な業務命令を受けたこと、これらに対し、弁護士を選任し争っていること、その他諸般の事情を考慮すると、被告会社の一連の違法な行為によって退職を余儀なくされた原告らの精神的苦痛を慰謝すべき金額は原告らそれぞれに対し金一〇〇万円をもって相当と認める。
〔就業規則-就業規則の一方的不利益変更-退職金〕
 被告組合には、退職金規定がなく、E会社の退職金規定を準用していること、同会社には、昭和四九年一二月一〇日から施行の旧退職金規程と、昭和六一年三月一一日から施行の新退職金規程があることは、当事者間に争いがないところ、新退職金規程は、退職金に関する限り、旧退職金規程よりも、労働者に不利益なものになっていることが明らかである。
 この点に関し、被告組合は、新退職金規程は労働者の過半数を代表するF及びGが賛成し、労働基準監督署長がその届出を受理し、承認していると主張するが、右はその制定手続をいうに過ぎず、原告らが退職金について新退職金規程によることを承諾したこと、ないし新退職金規程の右不利益変更について合理的理由があることについて、何らの主張、立証もしない。
 そうすると、原告らの退職金は、旧退職金規程によるべきである。
〔賃金-退職金-退職金請求権および支給規程の解釈・計算〕
 原告らが、被告組合の業務執行者である被告会社の本件自宅待機命令等の一連の違法な業務命令によって退職を余儀なくされたのであることは、既に認定したところ、右によれば、原告らの退職は、自己都合による退職とはいえず、被告組合にはやむを得ない業務上の都合による解雇と同視すべき帰責原因があるというべきであるから、旧退職金規程二条各号に準じて別紙第一退職金規程添付の退職金支給基準率表支給基準率A(以下「別表A」という。)に定める支給基準により、退職金を支給するのが相当である。
〔退職-任意退職〕
 原告らの退職の効力の発生時期につき、原告らは、昭和六一年一〇月二〇日を主張するところ、退職の効力が、従業員である原告らが自ら退職を申し出て即日効力を生ずるということはできないが(民法六二七条二項参照)、被告組合は、右期日から一四日経過後の同年一一月四日には原告らが退職したことを認めているのであるから、少なくとも被告組合主張の同年一一月四日には退職の効力が発生したことは当事者間に争いがないことになる。
〔賃金-退職金-退職金の支給時期〕
 退職金の支払時期について判断するに、旧退職金規程八条には、「退職金の支給は退職後すみやかにその全額を支払う。」と規定しているが、「すみやかに」の意義については、他に特段の事情のないかぎり、訓示的意味を有するにすぎないものと解するのが相当であり、右特段の事情を認めるに足りる証拠はなく、他に本件退職金の支払につき期限の定めを認めるに足りる証拠はないから、本件退職金支払債務は期限の定めのない債務というべきである。そうすると、原告らが退職金を請求したときに、その期限が到来することになる。