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ID番号 05525
事件名 降格処分無効確認等請求控訴事件
いわゆる事件名 神谷商事事件
争点
事案概要  ボーリング場のフロント係が遅番勤務命令に違反して早番勤務をしたことを理由とする賃金カットの効力が争われた事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法3章
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 業務命令
賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / 就労拒否(業務命令拒否)と賃金請求権
裁判年月日 1991年3月19日
裁判所名 東京高
裁判形式 判決
事件番号 平成2年 (ネ) 1586 
裁判結果 控訴一部取消,一部棄却
出典 労経速報1429号6頁
審級関係 一審/05272/東京地/平 2. 4.24/昭和60年(ワ)431号
評釈論文
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-業務命令〕
 右認定の事実によれば、本件命令が発せられたのは控訴人と組合との間の労働紛争が激化していた時期であったうえに、本件命令は、被控訴人に早番を命ずる通知をしてからわずか九日後の、末だ被控訴人が早番に就かない時期になされたものであって、被控訴人の希望に沿った早番勤務を覆すものであり、それにもかかわらず、控訴人には、当初の通知に則した態度を維持するための努力に欠けるところがあり、かつ、被控訴人の理解と協力を得るための控訴人の対応も不十分であったということができる。しかし、右事実から判断される以下の各事情、すなわち、従前の早番及び遅番に対する人員の配置の状態からは、遅番に対する必要な配置人員が何名であったのかを的確に把握することが困難であり、したがって、その当時被控訴人を遅番に配置することが無用であったと断定することはできないこと、控訴人は、組合の抗議の結果「A紙」に求人広告を出すことができなくなったために、人員の補充をするめどが立たなくなっていたこと、被控訴人を遅番に当てることに決めたのは、Bを採用する前のことであったから、被控訴人を遅番にまわすために、ことさらBをボーリングの早番に誘致したとはいえないこと、遅番の勤務は、早番に較べると、時間帯の点では不利であるが、給与の点では少なくとも一ヵ月三万円程度有利であり(〔中略〕)、したがって、労働者の立場からいって早番勤務が遅番勤務よりも有利であるとは一概にはいえないこと、被控訴人は、遅番勤務者から頼まれたためであったとはいえ、自らの意思によって遅番勤務を引き受け、七月中旬以降遅番勤務を続けてきたことを斟酌すると、控訴人が本件命令を発したことをもって権利の濫用であったということはできず、また、前認定の諸経緯及びその当時の状況をすべて考慮しても、本件命令が「A紙」への掲載に関する組合の行動への報復としてなされたものと認めることは困難であり、他にこの事実を認めるに足りる確かな証拠はないから、これをもって不当労働行為に該当するものと認めることもできない。
〔賃金-賃金請求権の発生-就労拒否(業務命令拒否)と賃金請求権〕
 前認定のとおり被控訴人は、右期間中遅番の勤務をしなかったのであるから、右カットされた賃金の支払いを求めることはできない。そして、控訴人は、その間自らの判断によって早番の勤務をしたけれども、この行為は、本件命令に反し、かつ控訴人の再三の警告に逆らってなされたものであって、これをもって、被控訴人が控訴人との間の労働契約に基づく労務に従事したものということができないから、被控訴人は、その賃金を請求することもできない。そうすると、被控訴人の右賃金一一万七一〇三円の支払いを求める請求は理由がない。