全 情 報

ID番号 05528
事件名 業務命令無効確認等請求事件
いわゆる事件名 第一学習社事件
争点
事案概要  本社編集部編集課勤務から地方営業所への配転命令を受けた労働者がその命令に従わずに編集課で勤務したことにつき、使用者がそれを欠務として賃金を支払わなかったことに対して、右労働者が労働契約上の勤務場所が右編集課であることの確認と賃金の支払いを求めた事例。
参照法条 労働基準法2章
労働組合法7条1号
体系項目 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令権の濫用
配転・出向・転籍・派遣 / 配転・出向・転籍・派遣と争訟
裁判年月日 1991年3月26日
裁判所名 広島地
裁判形式 判決
事件番号 昭和49年 (ワ) 289 
裁判結果 一部認容,一部棄却
出典 労働判例589号78頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の濫用〕
 以上認定の本件配転命令、出向命令当時までの原告らの組合活動、第一組合及び出版労連に関する被告の言動、第一組合員に対する処分、第二組合に対する被告の態度等の諸経過に照らすと、被告が第一組合を敵視していたこと、第一組合員に大きな影響力を持つ原告らを好ましからざる組合活動家と評価していたことは容易に推測され、本件配転命令、出向命令の動機の一つとして不当労働行為意思が作用していたことは明らかである。ただ、右各命令は被告としても一応の理由がうかがわれるので、これらを発するにあたって、右不当労働行為意思が決定的原因であったか否かについて検討するに、右摘示の事情に加えて、原告らが主として編集職として採用されたこと、原告X1を配転させると英語課におけるA係長の負担が大きくなることから同人には当初配転でなく出向が予定されていたところ、英語課のAが辞職しその後任が必要となったにもかかわらず、結局配転命令が出されたこと、被告は原告X2が営業に不向きと判断していたにもかかわらず、札幌での営業活動上も有利であるとして在庫本の発送、ラベル貼りを主な内容とする業務の応援のため同人に出向を命じたこと、しかも出向の場合は通常終期が定められている(辞令に記載されている。)のに原告X2の場合はその記載がされていなかったこと、被告の前記仮処分(昭和四九年(ヨ)第八四号事件)後の原告らに対する対応は極めて変則的な形態であり、あえて編集の補助的業務にも従事させないことに合理的理由は認められないこと等前記認定の諸事情を勘案すると、本件配転命令、出向命令は、結局のところ原告らの組合活動を嫌悪し、右活動を困難ならしめ、組合員に対する影響力を減殺する意図のもとになしたものであり、これが本件配転命令等を発するに至った決定的な理由であると推認されるものである。
 以上のとおり、本件配転命令、出向命令は労働組合法七条一号に該当する不当労働行為であるから無効である。
〔配転・出向・転籍・派遣-配転・出向・転籍・派遣と争訟〕
 被告は原告らの請求は就労請求権の確認を求めているものであるところ、いわゆる就労請求権は認められないから、その点ですでに原告らの請求は失当である旨主張しているが、第一、一で述べたとおり、原告らの請求はその陳述の全趣旨に照らして考えると、就労請求権の確認を求めたものではなく、労働契約の一内容をなす就労場所の確認を求めるものと解されるので、被告の主張は理由がない。
 更に、被告は原告らを特に編集職に限定して採用したわけではないと主張するので、この点について判断するに、被告の入社試験には専門職と一般職の試験があったが、原告X1、同X2はそれぞれ英語、生物の専門職の試験を経て入社したこと、入社の面接の際、営業に出てもらう旨の説明を受けたが、それは編集者であっても高等学校の現場の教師の意見等について熟知する必要があるとの見地からの説明であったこと、原告X2は入社後、生物関係の教科書等の編集会議には積極的に参加を求められ、著者に引き会わされたりしたこと、営業研修会には出席を命ぜられていないこと等の事実に照らして考えると、原告らは時に営業の応援に出ることはあっても、主としてそれぞれ英語担当、生物担当の編集の仕事に従事すべきものとして採用されたと認めるのが相当である。