全 情 報

ID番号 05581
事件名 休息権確認等請求事件
いわゆる事件名 全逓中央郵便局慣行休息事件
争点
事案概要  東京中央郵便局において勤務時間規程、協約、就業規則を上回る休息時間の慣行が存在したところ、当局がそれを一方的に廃止したのは違法であるとして、従前の休息時間につき休息する権利の確認請求がなされた事例。
参照法条 労働組合法14条
労働組合法16条
民法92条
体系項目 休憩(民事) / 休憩時間(公務員)
裁判年月日 1991年8月7日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和59年 (行ウ) 81 
裁判結果 棄却(控訴)
出典 労働民例集42巻4号589頁/時報1403号113頁/タイムズ769号169頁/労経速報1435号3頁/労働判例594号41頁/法律新聞1026号6頁
審級関係
評釈論文 山口浩一郎・労働判例百選<第6版>〔別冊ジュリスト134〕44~45頁1995年5月/小林譲二、牛久保秀樹・労働法律旬報1272号26~32頁1991年9月25日/長谷川誠・平成4年度主要民事判例解説〔判例タイムズ821〕336~337頁1993年9月/島田陽一・労働法律旬報1288号11~21頁1992年5月25日
判決理由 〔休憩-休憩時間(公務員)〕
 原告らは、労働協約の要件を欠くとしても、労働協約の規範的効力は協約自体の本質上当然に認められるものであるから、労使の合意には労働協約に準じた効力が認められると主張する。
 しかしながら、労働組合法が労働協約の成立に厳格な要式性を要求した趣旨が前記説示のとおりであることからして、たとえ労使間に合意が成立したとしても、労働協約としての要件を欠く場合には、これに労働組合法一六条に定める規範的効力を認めることができないと解するのが相当であり、原告らの右主張は採用することができない。
 以上によれば、慣行休息が労働協約又はこれに準じる労働条件としての効力を有するとの原告らの主張は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。〔中略〕
 2 前記認定のとおり東京中郵局では、昭和四五年六月以降昭和五九年五月まで慣行休息が存在していた。
 ところで、民法九二条により法的効力のある労使慣行が成立していると認められるためには、【1】同種行為又は事実が長期間反復継続して行われていること、【2】当事者が明示的にこれによることを排斥していないこと、【3】当該労働条件についてその内容を決定しうる権限を有し、あるいはその取り扱いについて一定の裁量権を有する者が、規範的意識を有していたことを要するものと解すべきである。したがって、当該労使慣行が就業規則や勤務時間規程の定めるところと抵触する場合には、右就業規則や勤務時間規程を制定改廃する権限を有するものか、あるいは実質上これと同視しうるものが、当該労使慣行について規範意識を有していたことを要することになる。
 3 勤務時間規程は、休息時間について、その原則と、組織上の部局・機関、職種・業務及び勤務の形態、勤務の種類に応じた特例を定めている。個々の郵便局の所属長(郵便局長)は、休息時間を設ける方法などについて服務表を定め、これを関係職員に周知しなければならない(同規程二五条一項)。また、大臣官房人事部長(昭和五九年六月三〇日改正前は人事局長)は、特別の事情により勤務時間規程により難いときは、別段の取扱を定めることができることとされ(同規程八八条)、これに従って依命通達の形式で別段の定めがされている。このように、休息時間については、勤務時間規程及びこれに基づく別段の取扱によって、規程等に定める時間の範囲内で具体的な時間の指定を所属長に委ねているほか、すべての事項が明文の規定をもって定められている。このような規定の体裁、内容に照らすと、郵政事業を経営する被告としては、原則として明文の根拠に基づくことなく勤務時間中に休息することを認めない意思であることが明らかである。〔中略〕
 以上の次第で、慣行休息が選定者らの休息する権利となっていたとする原告らの主張は、いずれも理由がないことになる。
 したがって、原告らの主張の慣行休息が選定者らの休息する権利を有する時間であるということはできない。そうすると、東京中郵局長が慣行休息を当局の責任において是正することは何ら違法ではなく、団体交渉を経ずにこれを廃止したことが不当労働行為に該当したり、信義則に違反したり、権利の濫用になるとはいえない。また、選定者らに慣行休息につき休息する権利があることを前提に、これを廃止したことを理由とする本件損害賠償請求は、その前提を欠くし、慣行休息を廃止することに違法性も認められないから、その余の点について判断するまでもなく理由がない。