全 情 報

ID番号 05660
事件名 賃金等請求事件
いわゆる事件名 京橋郵便局員事件
争点
事案概要  郵便集配課勤務の者が区分作業中にお茶を飲もうとして坐った腰かけ台のネジが脱落していて転倒し茶わんが割れて左手掌に負傷し五カ月の病気休暇をとって治療にあたり、さらに二カ月の休職処分を受け、そのため給与を減額され昇給の号俸を減じられたことによって生じた損害賠償等を請求した事例。
参照法条 労働基準法2章
民法415条
国家賠償法2条1項
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 安全配慮(保護)義務・使用者の責任
休職 / 傷病休職
裁判年月日 1973年12月21日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和46年 (行ウ) 185 
裁判結果 一部認容,一部棄却(確定)
出典 労働民例集24巻6号610頁/時報731号97頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務・使用者の責任〕
 原告は、同課職員数名とともにお茶を飲むため、自己の持ち場を離れ、右机のところでお茶の入った湯飲み茶わんを手にして、右石油ストーブの周辺へ行った。当時同所には本件椅子を含めて三、四脚か五、六脚の道順組立用補助椅子(戸別組立作業に従事する際に使用する椅子である。)が置かれていたが、本件椅子は、旧式のもので、腰掛台をその下に取りつけられているねじで固定する構造のものであるところ、その腰掛台の固定ねじが脱落していた。そして、原告は、本件椅子と同じ型の道順組立用補助椅子の中に腰掛台の固定ねじの脱落しているものがあり、これに腰掛けた職員が腰掛台が回転したために転倒したという前例のあることを知っていた。けれども、原告は本件椅子が腰掛台の固定ねじの脱落していたものであるとは知らなかったので、これに腰をおろした。ところが、本件椅子は右のとおり腰掛台の固定ねじが脱落していたので腰掛台が後方に回転し、そのため原告は後方に転倒し、持っていた湯飲み茶わんが割れて、その破片で左手掌に正中神経損傷をともなう切傷を負った。
〔休職-傷病休職〕
 職員が郵政省ないし郵便局の施設の欠陥により生じた事故で負傷したようなときには、この負傷は右各労働協約の右各条にいう公務上の負傷に該当するものと解するのが相当である。
 しかるに、本件事故は、原告が勤務時間中に自己の持ち場を離れ、第一集配課事務室通路上に設けられていた石油ストーブの周辺で同課職員数名とともにお茶を飲もうとした際の職務中断中に発生したものである。けれども、原告が右のようにお茶を飲もうとした行為は、それが国家公務員法第一〇一条一項および郵政省就業規則第五条第一項、第一三条第一項に違反する怠業行為であるかどうかはともかくとして、局当局の指揮命令を排除し、その支配下から離脱するような性質、態様のものではなく、原告らとともにいわゆる一六時間勤務についていた職務上の指揮命令ならびに監督権限を有する主事において指揮命令をなし得る状態にあったのであるから、原告はなお局当局の指揮命令に基づく支配下にあったものというべきである。そして、本件事故は、後記認定のとおり、本件椅子の管理上腰掛台の固定ねじの脱落という瑕疵があったことにより発生したものである。そうすると、原告の本件事故による前記傷害は、右各労働協約の右各条にいう公務上の負傷に該当し、前記病気休暇ならびに休職処分は、右各労働協約の右各条にいう公務上の負傷による病気休暇ならびに休職処分に該当する。
〔労働契約-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務・使用者の責任〕
 本件椅子が被告の設置、管理にかかるものであることは当事者間に争いないところ、本件椅子は、戸別組立作業に従事する際に使用するもので、京橋郵便局の施設の一部を構成するものであるから、国家賠償法第二条第一項にいう公の営造物に該当する。そして、第二項で認定したところの事実からすると、本件事故は本件椅子の管理上腰掛台の固定ねじの脱落という瑕疵があったために発生したものと認められる。そして、原告は本件椅子と同じ型の旧式の道順組立用補助椅子の中に腰掛台の固定ねじの脱落しているものがあり、これに腰掛けた職員が原告と同じように転倒したという前例のあることを知っていたということを考慮したとしても、すでに認定したような本件椅子に腰を掛けたときの状況からは、本件椅子に腰掛けたこと自体を過失として、本件事故につき原告に過失があったということはできないし、他に原告の過失を裏づけるような事実を認めるに足りる証拠はない。そうすると、被告は原告に対し、本件事故による損害を賠償すべき義務がある。