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ID番号 05685
事件名 損害賠償代位請求事件/損害賠償請求事件
いわゆる事件名 農林省岩手食糧事務所事件
争点
事案概要  第三者の不法行為により死亡した国家公務員の遺族から加害者に対する損害賠償請求に関連して、国家公務員等退職手当法による退職手当、国家公務員共済組合法による退職給付の受給利益喪失による損害賠償債権を相続した者が、右公務員の死亡により遺族に給付される退職手当、退職給付等の受給権者でない場合に、右各給付相当額を損害賠償額から控除されるべきか否かが争われた事例。
参照法条 民法709条
国家公務員退職手当法2条1項1号
国家公務員共済組合法88条
体系項目 労災補償・労災保険 / 損害賠償等との関係 / 労災保険と損害賠償
裁判年月日 1975年10月24日
裁判所名 最高二小
裁判形式 判決
事件番号 昭和47年 (オ) 645 
裁判結果 一部棄却,一部破棄・自判
出典 民集29巻9号1379頁/時報798号16頁/タイムズ329号127頁/裁判集民116号321頁/交通民集8巻5号1258頁
審級関係 控訴審/仙台高/昭47. 3.14/昭和44年(ネ)348号
評釈論文 下森定・判例タイムズ335号97頁/瀬元美智男・社会保障判例百選〔別冊ジュリスト56号〕150頁/田尾桃二・ジュリスト605号52頁/田尾桃二・法曹時報30巻2号354頁
判決理由 〔労災補償・労災保険-損害賠償等との関係-労災保険と損害賠償〕
 国家公務員は、一定期間勤務したのち退職した場合、国家公務員等退職手当法による退職手当(以下単に「退職手当」と略称する。)及び国家公務員共済組合法による退職給付(以下単に「退職給付」と略称する。)の支給を受けることができるのであるから、右のような公務員が他人の不法行為によつて死亡した場合、同人は加害者に対し、生存していたならば得ることのできた給与、退職手当及び退職給付の合計額からその生活必要経費及び中間利息を控除した額について損害賠償債権を取得し、その相続人は相続分に応じて右死亡した者の損害賠償債権を相続するのである。
 一方、国家公務員が死亡した場合、その遺族のうち一定の資格がある者に対して、国家公務員等退職手当法による退職手当及び国家公務員共済組合法による遺族年金(以下単に「遺族年金」と略称する。)が支給され、更に、右死亡が公務上の災害にあたるときは、国家公務員災害補償法による遺族補償金(以下単に「遺族補償金」と略称する。)が支給されるのである。そして、遺族に支給される右各給付は、国家公務員の収入によつて生計を維持していた遺族に対して、右公務員の死亡のためその収入によつて受けることのできた利益を喪失したことに対する損失補償及び生活保障を与えることを目的とし、かつ、その機能を営むものであつて、遺族にとつて右各給付によつて受ける利益は死亡した者の得べかりし収入によつて受けることのできた利益と実質的に同一同質のものといえるから、死亡した者からその得べかりし収入の喪失についての損害賠償債権を相続した遺族が右各給付の支給を受ける権利を取得したときは、同人の加害者に対する損害賠償債額権の算定にあたつては、相続した前記損害賠償債権額から右各給付相当額を控除しなければならないと解するのが相当である(最高裁昭和三八年(オ)第九八七号、同四一年四月七日第一小法廷判決民集二〇巻四号四九九頁参照。)
 ところで、退職手当、遺族年金及び遺族補償金の各受給権者は、法律上、受給資格がある遺族のうちの所定の順位にある者と定められており、死亡した国家公務員の妻と子がその遺族である場合には、右各給付についての受給権者は死亡した者の収入により生計を維持していた妻のみと定められている(国家公務員等退職手当法一一条二項、一項一号、国家公務員共済組合法四三条一項、二条一項三号、国家公務員災害補償法昭和四一年法律第六七号改正前の一六条二項、一項二号)から、遺族の加害者に対する前記損害賠償債権額の算定をするにあたつて、右給付相当額は、妻の損害賠償債権からだけ控除すべきであり、子の損害賠償債権額から控除することはできないものといわなければならない。けだし、受給権者でない遺族が事実上受給権者から右各給付の利益を享受することがあつても、それは法律上保障された利益ではなく、受給権者でない遺族の損害賠償債権額から右享受利益を控除することはできないからである。
 本件の場合、原判決によると、亡Aの遺族は、同人の収入により生計を維持していた妻であるBのほか、子である上告人らであるというのであるから、Aの遺族に支給される各給付の受給権者は妻のBだけであり、同人において右各給付による法律上の利益を受けているのであつて、右各給付相当額は、同人の損害賠償債権額から控除されるべきであり、これを上告人らの損害賠償債権額から控除することは許されないといわなければならない。