全 情 報

ID番号 05691
事件名 処分取消請求事件
いわゆる事件名 飯田橋労働基準監督署長事件
争点
事案概要  動脈瘤の基礎疾病を有する塗装会社の取締役兼工事部長が会議の席上で動脈瘤の破綻によるくも膜下出血によって死亡したことにつき、業務上にあたるか否かが争われた事例。
参照法条 労働者災害補償保険法7条1項1号
体系項目 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 業務起因性
労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 脳・心疾患等
裁判年月日 1980年4月28日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和48年 (行ウ) 108 
裁判結果 棄却
出典 時報983号69頁/労経速報1053号18頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-業務起因性〕
 労働者災害補償保険法による障害補償給付等を受け得る業務上の事由による労働者の負傷又は疾病等(以下業務上の傷害等という)とは、業務との間に相当因果関係をもって発生したものでなければならないが、ここにいう業務上の傷害等が被災害者の既往の素因もしくは基礎疾病又は既存の疾病が条件又は原因となって発生したと認められても、業務的要因がこれらと共働原因となり当該傷病等が発生し又は既存疾病等が急激に増悪し、かつその間に相当程度の因果関係が認められる限り、当該傷病等は業務上のものと認定されるべきであると解するを相当とする。
〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-脳・心疾患等〕
 本件会議は、鋼製プール工事の施行状況の報告と、塗装工事施行上の問題点を互いに検討することを目的とするもので、その過程で塗装工事の遅延・瑕疵等に関する事実の指摘、報告があったことは認められる。しかしながら、これらの諸点に対して元請業者ら側から具体的な督促・批判が加えられ、場合によっては徹底的な原因究明ひいては契約責任の追求等という現実的な議論がなされた形跡はないし、又、本件会議自体このような応酬を目的としたものではないから、緊張を強いられるような状況で議事が進行していたとは考えられない。亡Aの発言も工事の遅延・瑕疵等の指摘に対し弁解、反論するというものではなく、むしろ元請業者らに対して工程管理上の善処方を要望し、下請業者との疏通をうまく図る等すれば円滑な工事施行ができると自分の体験談を紹介し他の関係業者に適切な管理を示唆する内容のものであった。従って、それ自体亡Aが、日ごろ工程管理について抱いていた不満を表明したものであったとしても、特に激しい精神的緊張あるいは興奮に陥っての発言であるとは窺い得ないのである。又、本件会議の内容、雰囲気、進行経過からみても特に興奮するような状況下にあったとは認められない。
 従って、本件会議の席上、亡Aが激しい精神的緊張に襲われ、その結果本件発症を来たすような血圧亢進が惹起したとは認められない。