全 情 報

ID番号 05703
事件名 公務外災害認定処分取消請求事件
いわゆる事件名 地方公務員災害補償基金高知県支部長(越知中学)事件
争点
事案概要  中学校教諭のくも膜下出血による死亡につき、その遺族が公務災害でないとした地方公務員災害補償基金支部長の処分の取消を求めて争った事例。
参照法条 地方公務員災害補償法31条
体系項目 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 脳・心疾患等
裁判年月日 1990年2月22日
裁判所名 高知地
裁判形式 判決
事件番号 昭和60年 (行ウ) 5 
裁判結果 認容
出典 労働判例571号30頁/判例地方自治74号38頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-脳・心疾患等〕
 以上のとおり、前記二の2及び3に認定した事実に照らせば、原告は、公務に精力的に取り組んできたが、殊に昭和五一年九月一六日以降、舎監業務等が増大したため肉体的、精神的疲労が蓄積し、被災日前日ころには慢性的疲労状態に陥っていたところ、被災日前日にさらに疲労が深まる出来事が重なり、その結果、被災日には疲労の蓄積が深刻な事態にまで達していたものと推認できる。なお、被告は、原告ら教員には、学校のいわゆる春、夏、冬休みに休養がとれるから疲労の蓄積は考えられない旨主張しているが、原告の舎監業務が増大したのは、二学期に入った九月一六日以降であり、前記業務内容からすると、その後本件疾病の発症までの二か月余りの間に疲労が蓄積し、慢性的疲労状態になったとしても不自然ではない。
 これを前記二の5で認定した事実に照らして検討すると、原告は、右のような慢性的疲労状態となり、これが原告の血圧及び脳動脈瘤に悪く作用し、また血圧の変動による悪影響を増幅させる要因となって、これに血圧を急激に上昇させる何らかの要因が働いて本件疾病の発症に至ったと解することができる。また、前記二の4で認定したように、原告は飲酒、喫煙は慎み、従来頑健で体力に自信があり、昭和五〇年一二月ころまでは正常な血圧状態であったなど、脳動脈瘤破裂の背景事情として良好な状況にあったのに、本件疾病を発症するに至っていることは、やはりその後の公務の遂行による慢性的疲労が本件疾病に対して相当程度影響しているとみざるをえない。この点に関し、同じく二の4で認定したように、原告は業務によって疲労感を感じるようになった後、教壇でふらついたり、白墨を持つ手が震えたりしたため医師に受診したが、特にどこかが悪いとの指摘は受けなかったことが認められ、原告がこれまで医師から高血圧を指摘されたことがないことに照らせば、右受診時にも血圧が高いとの指摘がなかったものと思われるが、このふらつき等の原因が何らかの特別な疾患によるものであり、かつそれが本件疾病に関与しているか否かにつき、これを疑わせる証拠はないから、この事情をもって、疲労の蓄積が血圧の急上昇の要因となったとする推論を左右するものではない。もっとも、本件においては、血圧が急上昇した直接の要因が何であったかは必ずしも判然としないが、発症時刻が血圧の日内変動のピーク時とされる時間帯に一致していること、発症直前には、原告は通常の学校勤務に従事しており、発症時における血圧の急激な上昇を説明できる突発的出来事や何らかの疾患を窺わせるに足りる証拠はないこと等を併せ考えると、被災日に原告が起床して以降、日内変動のピーク時とされる午前一一時ころに向かい血圧が上昇したが、前記慢性的疲労による持続的高血圧状態により、血圧上昇の幅が著しく増幅されて、本件疾病の発症時には前記二三〇/一二〇という異常な高血圧になり脳動脈瘤が破裂するに至ったという推測も十分可能である。
 以上を総合して考えると、原告の脳動脈瘤の破裂については、原告の従事していた公務が共働の原因になっていたものといってよく、原告が本件疾病の発症を予知しながらあえて公務に従事したなど災害補償の趣旨に反する特段の事情を認めさせる証拠もないから、原告の公務と本件疾病との間には相当因果関係があるものと解するのが相当である。