全 情 報

ID番号 05722
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 香焼町事件
争点
事案概要  町の職員組合が配布したビラにつきその内容が事実をことさらに歪曲・誇張したもので町当局の名誉・信用を著しく傷つけたとしてなされた組合三役に対する懲戒処分(委員長は停職三ヵ月、副委員長・書記長は減給三ヵ月)につき、右職員組合および組合三役が懲戒処分を不当として損害賠償を請求した事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
労働組合法7条1号
民法709条
地方公務員法29条1項
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 違法争議行為・組合活動
労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 使用者に対する労災以外の損害賠償
裁判年月日 1990年11月6日
裁判所名 長崎地
裁判形式 判決
事件番号 平成1年 (ワ) 400 
裁判結果 一部認容,一部棄却(控訴)
出典 労働判例601号76頁/判例地方自治84号43頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-違法争議行為・組合活動〕
 本件批判文は、労働組合の立場から現町長及び香焼町に対し、その労務管理や行政運営のあり方を批判し、働きやすい職場こそ大切であることを訴える趣旨のものではあるが、その内容は個々具体的な事実の記載を主にしているというよりは、むしろ、労務管理や行政運営に対する労働組合としての意見・論評といったものであり、被告らが特に不実の記載であるとする前記の部分も、職階制の強化が「差別を拡大する」賃金きり下げか否か、管理運営事項にあたるとする組合との交渉の拒否が「働きやすい職場環境作りのための」組合要求に対する拒否か否かなどといったことはその意見・論評するものの立場、考え方によって判断が異なって当然であって、必ずしも真実か否かが問題とされるような具体的な事実の摘示とはいえず、むしろ町政のあり方への意見・論評に属するものというべきである。
 そして、本件批判文がその表現においていたずらに誹謗・中傷に及ぶものではないことも、別紙二〔略〕を通覧すれば明らかである。そうすると、これを理由に処分を行なうことは、その結果において、反対の立場に立つ者の言論活動自体を抑制することにつながるものというべきであって、民主的な政治体制下において許されることではないといわざるを得ない。
 なお、被告らは、本件抗議文と本件批判文を併せて読むことによって与える印象についても主張するが、これらを併せて通読し、本件ビラを全体として検討しても、前述した各文の個所の趣旨・内容を越えて、いたずらに中傷・誹謗に及ぶ表現がなされているとか事実をことさらに誇張・歪曲した不実の記載がなされているとの評価をすべきものとは到底解されない。
 また、本件各懲戒処分の理由においては、原告労働組合が前記追悼抗議集会を開催し、本件抗議文を採択したことや、本件抗議文や本件批判文を一体のビラとして広く町民に配付したことをも問題としているが、本件抗議文や本件批判文が前記のような内容のものであることや、前記認定のような追悼抗議集会の開催に至る経過及びビラ配付の目的などに照らすと、町職員で構成する原告労働組合の活動として正当な範囲を逸脱したものとはいえず、特に違法とすべきものとは解されないから、これを実行する行為が公務員としての信用失墜行為にあたるとか、全体の奉仕者としてふさわしくない行為にあたるとは到底解されない。
 そうすると、本件ビラの配付を含む原告労働組合の一連の行為には、特段違法とすべきものはなく、その余の原告らについて、地方公務員二九条一項一号、三号に該当する懲戒処分事由は存在しないことが明らかであって、これに対してなされた本件各懲戒処分は、懲戒権者の裁量権等を云々するまでもなく処分事由を欠く違法なものであるといわざるを得ない。
〔労働契約-労働契約上の権利義務-使用者に対する労災以外の損害賠償〕
 本件各懲戒処分は、原告労働組合が労働組合として行なった行為に対し、その執行委員長など組合の幹部を処分したものであるから、一応原告労働組合の団結権を侵害するものではあるが、その処分の内容は原告組合員個人に対する停職ないし減給処分であって、これによる損害は通常は直接組合員個人に生じるのであるから、その損害が賠償されれば足りるというべきである。