全 情 報

ID番号 05728
事件名 雇用関係不存在確認請求事件/雇用関係確認等請求事件
いわゆる事件名 東京医療生活協同組合事件
争点
事案概要  業務上の疾病が治癒したとして休業または軽減勤務中の労働者に対してなされた通常勤務命令違反および業務妨害等を理由とする懲戒解雇が労基法一九条に違反するか否かが争われた事例。
参照法条 労働基準法19条
労働基準法89条1項9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 暴力・暴行・暴言
解雇(民事) / 解雇制限(労基法19条) / 解雇制限と業務上・外
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒手続
裁判年月日 1990年12月5日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和58年 (ワ) 8029 10429 
裁判結果 本訴認容,反訴棄却(控訴)
出典 時報1378号125頁/労働判例575号31頁/労経速報1419号12頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-暴力・暴行・暴言〕
 右に認定したところによれば、被告両名は、Aをはじめとする斗う会の者らと共謀のうえ、B病院の院長をはじめとする管理者の業務の遂行を脅迫的言辞などをもって実力で妨害し、病院に向けてその玄関前から長時間にわたり拡声器で演説し、病院職員に対し暴言を吐くなどしたもので、被告らのこれらの行為によって、右病院の業務が妨害されるとともに、入院及び外来患者が著しい迷惑を被り、同病院における治療行為に多大の支障をきたしたことは明らかである。被告両名の右の各行為は、原告のB病院の就業規則六五条九号(他人に対して暴行脅迫を加えてその業務を妨げた者)、一〇号(職務上の指示、命令に対して不当に反抗し、職場の秩序を紊そうとした者)又は一七号(その他前各号に準ずる程度の不都合の行為があった者)に定める懲戒事由に該当するものであり、被告両名は、病院職員として医療に支障をきたさないよう十分に配慮すべき立場にありながら、あえてこのような行為に及んだものである。そして、後記のとおり通常勤務命令違反も懲戒事由となるから、これらの事由に対し懲戒解雇をもって臨むのも止むを得ないというべきである。
 被告らは、右各行為は原告の職業病患者排除に対する抗議行動として行った相当な行為であると主張するが、その行為態様に照らし抗議行動として認められる範囲を逸脱したものといわざるを得ないから、右主張は到底採用することができない。
〔解雇-解雇制限(労基法19条)-解雇制限と業務上・外〕
 右に認定した事実によれば、同被告の頚椎捻挫についても、同五四年一一月以降同五六年一月に至るまで傍脊柱部等の圧痛以外に見るべき症状がなく、C医師も同五五年二月の時点で同被告の症状から頚椎捻挫としての加療期間をそろそろ過ぎるのではないかと判断している。同被告は前記のとおり神経症と診断されており、右神経症が同被告の疼痛の訴えに影響を及ぼしているものとみざるを得ないのは、腰痛症の場合と同様である。これらの事情とD医師の診断とを総合すると、同被告の頚椎捻挫も遅くとも同五六年一月の時点では症状が固定し、後遺症があったとしてもその原因は神経症にあるとの疑いが強いものと認めるのが相当である。
 そして、被告Y1も、被告Y2と同様に原告に対する抗議行動を行っていたものであり、その態様に照らせば、同被告が用度施設課雑務係として通常の勤務に就くことは十分可能であったものということができ、その意味で既に治癒していたものと認められる。
 これに対し、被告Y1の陳述書には、右の当時、同被告の疾病が治癒していなかった旨の記載があり、確かに同被告は前記のとおり昭和五五年六月から勤務に就いていなかったものであるが、右の勤務を止めたのは同被告本人の判断であって、その当時特別に症状が悪化した事実を認めるに足りる証拠はなく、前述の諸事情とりわけ同被告が神経症と診断されていることに照らすと、右陳述書の記載があるからといって、右の治癒の認定を覆すに足りるものではない。また、D医師の診断については被告Y2の場合と同様の問題を指摘できるとしても、前記事情に照らせば、それが誤りであったとすることはできない。
 以上によれば、被告Y2及び同Y1の疾病は、本件解雇当時既に治癒し、本件解雇につき労働基準法一九条の解雇制限の規定が適用される余地はなかったものである。同時に、原告の発した通常勤務命令はその効力を有し、これに従わなかったことは就業規則六五条八号、一〇号の懲戒事由となるということができる。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒手続〕
 さらに被告らは、懲戒委員会当日の同人らの行動を懲戒理由とするためには、右懲戒委員会に出席していなかった原告の労働組合選出の懲戒委員に対し右事由を明示して委員の招集手続をやり直し、改めて被告両名に弁解の機会を与えなければならなかったのに、これをしなかった点において手続上の瑕疵がある旨主張する。
 確かに原告は、被告Y2に対する懲戒委員会の当日である同五六年四月一三日に被告両名が行った前記一9記載の行為を懲戒事由に含めるについては、改めて労働組合に懲戒委員の選出を求めたうえで懲戒委員の招集手続をしたり、被告両名に弁解の機会を与えることはしなかったことが認められる。しかしながら、本件においては、労働組合は原告の依頼にもかかわらず懲戒委員を推薦しておらず、被告両名も労働組合を通じて自己の要求の実現を図ろうとはしていなかったこと、前記一9記載のとおり、懲戒委員会当日の被告両名の行為は懲戒委員会の審議の妨害を意図して行われたものであり、このように、懲戒委員会自体を否定する行為について改めて懲戒委員会の場での弁解の機会を与えることはあまりにも厳格な手続を要求するもので、無意味に近いことに鑑みると、原告が被告主張のような手続を行わなかったとしても手続上の瑕疵があるということはできない。
 したがって、原告の被告両名に対する各懲戒解雇に、解雇権の濫用があるということはできない。