全 情 報

ID番号 05781
事件名 従業員地位確認本訴請求事件/仮払金返還反訴請求控訴事件
いわゆる事件名 川崎重工業事件
争点
事案概要  神戸工場船舶事業本部で電算機のオペレーター業務に従事していた従業員が、同本部の人員削減の必要、航空機事業部の人員強化を理由に岐阜工場航空機事業部に配転され、その効力を争った事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法89条1項3号
体系項目 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令の根拠
配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令権の限界
配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令権の濫用
解雇(民事) / 解雇事由 / 業務命令違反
裁判年月日 1991年8月9日
裁判所名 大阪高
裁判形式 判決
事件番号 平成1年 (ネ) 1347 
裁判結果 棄却(上告)
出典 労働民例集42巻4号625頁/タイムズ793号162頁/労経速報1441号3頁/労働判例595号50頁
審級関係 上告審/06040/最高三小/平 4.10.20/平成3年(オ)1848号
評釈論文
判決理由 〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令の根拠〕
 当裁判所も、控訴人の本訴請求(当審で拡張された部分を含む)を棄却し、被控訴人の反訴請求を認容(但し、当審で被控訴人が請求を減縮した限度で)すべきものと認定、判断するが、その理由は、以下に訂正、付加するほかは、原判決の理由の記載のとおりであるから、これを引用する。
〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の限界〕
 控訴人は、種々の事情をあげ、最高裁昭和六一年七月一四日判決(判例時報一一九八号一四九頁)(いわゆる東亜ペイント事件)にかかわらず、工場・事業所の新増設、閉鎖・縮小、企業の合併、操業度の大幅な変動等に伴ういわゆる合理化配転の場合には、【1】業務上の必要性が高度であり、かつ、当該対象者が最適任者であることの証明がない場合、【2】家族関係等から見て、単身赴任を余儀なくされるなど、労働者の生活に、相当程度の不利益をもたらす場合、【3】他に不当な動機、目的がある場合、には、いずれも、その配転命令は、人事権の濫用に当たり、これを無効とすべきであると主張する。
 しかしながら、いわゆるローテーション配転とは異なる合理化配転の場合でも、使用者は、業務上の必要に応じ、その裁量により労働者の勤務場所を決定することができるものと解すべきであり、当該転勤命令につき業務上の必要性がない場合又は業務上の必要性が存する場合であっても、当該転勤命令が他の不当な動機・目的をもってなされたものであるとき、若くは、労働者に対し、通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるべきものであるとき等、特段の事情の存する場合でない限りは、当該配転命令は、権利の濫用となるものではないと解すべきであって(前掲最高裁判決参照)、控訴人主張の諸事情を考慮しても、これを別異に解すべき合理性はない。
〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の濫用〕
 以上のとおり、本件配転については、業務上の必要が存し、控訴人を配転予定者とした人選に不合理な点はなく、他の不当な動機・目的をもってなされたものとも認められず、控訴人が被る不利益も通常甘受すべき程度を著しく超えるものとは認められないので、これを人事権の濫用として無効とすることはできない。
〔解雇-解雇事由-業務命令違反〕
 前記認定のとおり、本件配転は、造船不況による造船需要の大幅な低落と操業度の低下によって生じた大量の余剰人員を解消すると共に、航空機事業部における人員を増強する必要等、被控訴人の業務上の必要性のために行われたものである。その上、前掲乙第二二、第二五、第五〇号証、第五六号証の一ないし三、第五七号証の一ないし三、第五八号証の一、二、原審証人Aの証言、並びに、弁論の全趣旨によれば、控訴人と同様、右造船不況等の緊急対策による配転の対象となった多数の従業員は、病気の家族を抱え、その看護のため転勤できないなど特別の事情のあるものとは別として、事務技術系職であると、現業職であるとを問わず、被控訴人の造船部門が直面する厳しい情勢を認識し、自己の持ち家を処分し、あるいは子供を転校、転園させるなど、それぞれに個人的に大きな犠牲と不便を忍びつつ、配転に協力したこと、本件配転について、控訴人から苦情処理の申立を受けた組合では、控訴人本人から事情聴取するなど調査したうえ、結婚を間近に控え、夫婦共働きの必要があるとか、将来郷里の母を引き取り扶養しなければならないという控訴人主張の理由では、被控訴人に配転撤回を求めるには不十分であり、その程度の事情ではむしろ配転に応ずべきであるとの判断のもとに、控訴人に対し、配転に協力するように説得したこと、以上のような事実が認められる。
 そして、これらの事実に、前記認定の諸事情に照らして考えれば、本件解雇が、解雇権の濫用であるとは到底認められない。
 したがって、本件解雇が解雇権の濫用として無効であるとする控訴人の主張は理由がない。