全 情 報

ID番号 05801
事件名 地位保全仮処分命令申立事件
いわゆる事件名 高圓運輸事件
争点
事案概要  会社の指示する貨物の運輸およびそれに付帯する作業を行なって原価精算給を受ける労働契約を締結した労働者が、組合を通じて正社員化を要求したことを理由として契約を解除されその効力を争った事例。
参照法条 労働基準法89条1項3号
民法90条
体系項目 解雇(民事) / 解雇権の濫用
裁判年月日 1991年9月25日
裁判所名 大阪地
裁判形式 決定
事件番号 平成3年 (ヨ) 2024 
裁判結果 認容
出典 労経速報1444号16頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-解雇権の濫用〕
 労働者の労働条件は当事者間の自由な契約で決められるのが原則であるが、しかし、労働者が使用者に対して経済的に弱い立場にあることに鑑み、現行法においては、労働条件は、労働者と使用者とが対等な立場で決定すべきものとし、これを実質的に保障するため、労働者は、労働組合を結成して、使用者との間で労働条件の改善を求めて団体交渉を行う権利が保障されている(憲法二八条、労働組合法一条一項)のである。そして、これは、公の秩序となっているので、これを否定するような法律行為は、私的自治の範囲を越え、民法九〇条により無効になるというべきである。
 これを本件についてみると、債権者が債務者に対し、組合を通じて団体交渉において正社員化を要求することは、労働条件の改善を求めて団体交渉を行うものであって、前記のとおり債権者に保障された基本的な権利というべきである(正社員化要求が原価精算給労働者という債権者の従来の地位を否定するものであっても、これも労働条件の改善を求めるものということができ、債権者に保障された基本的な権利というべきであり、また正社員化要求をしたとしても、直ちに原価精算給労働者としての自覚を踏まえた業務の遂行が期待できないともいえないし、その疎明もない)。そして、本件契約九条二項は、前記のとおり債権者において本件契約書の条項及び本件契約書添付の覚書と異なった労働条件を求めた場合には、債務者が直ちに本件契約を解除できるものと規定しているところ、右条項自体の効力はともかくとして(労働条件の改善を求める一切の行為を対象とすれば、その条項自体の効力に疑問がある)、債権者が債務者に対し、組合を通じて団体交渉において正社員化要求をしたことを理由に、本件契約九条二項に基づき本件契約を解除することは、債権者に保障された基本的な権利の否定となるので、本件契約の解除(解雇)は、民法九〇条により無効というべきである。
 従って、その余の点について判断するまでもなく、本件契約の解除(解雇)は無効というべきであり、債権者は、依然として債務者会社の原価精算給労働契約(雇用契約の性質も有する)上の権利を有する地位にあるというべきである。