全 情 報

ID番号 05896
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 九州航空事件
争点
事案概要  貨物自動車運転手による自動車ドアのフック装置の損傷に対する使用者による損害賠償請求につき、事業の執行につきなされた労働者の加害行為により損害をこうむった場合は、損害の公平な分担という信義則上相当と認められる限度において、右請求が認められるとされた事例。
参照法条 民法709条
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 労働者の損害賠償義務
裁判年月日 1992年2月26日
裁判所名 福岡地
裁判形式 判決
事件番号 平成1年 (ワ) 1046 
裁判結果 一部認容
出典 労働判例608号35頁/労経速報1471号17頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-労働者の損害賠償義務〕
 使用者が、その事業の執行につきなされた被用者の加害行為により、直接損害を被った場合には、使用者は、その事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防もしくは損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、被用者に対し右損害の賠償を請求することができるものと解すべきである(最高裁判所第一小法廷判決昭和五一年七月八日・民集三〇巻七号六八九頁参照)。
 証拠(証拠・人証略)によれば、原告会社には、被告以上に事故を多く起こしている従業員もいること、被告は、本件事故当時、二トン車業務を担当しており、同業務は、他の業務に比較し、重い物や数量の多い物が割り当てられたり、広範囲を、時間を気にしながら集配、運行しなければならない点はあるものの、被告が他の従業員と比較して特に業務、労働条件が過酷であったとは言えないこと、が認められる。
 右事実に前記一1認定の事実を併せ考えれば、本件事故は被告の相当重い過失に起因するものであり、損害も決して軽微とまでは言えないが、原告会社における前記認定の事故による損害の一部負担制度は、主に、損害金を一部従業員に負担させることを通して業務の過程で発生する事故抑止力の強化を計ることを目的として実施されたものであること、被告は本件事故により無事故手当金月額二五〇〇円を六か月間(合計一万五〇〇〇円)カットされる処分を受けていることに、前認定の原告の事業の性格、規模、施設の状況、被告の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様その他諸般の事情を考慮すると、原告は、被告に対し、本件事故によって被った損害額の三分の一である金一万円の限度で請求することができるもので(右の限度では権利の濫用と言うこともできない。)、これを超える部分については信義則上請求が許されないものと言うべきである。