全 情 報

ID番号 05932
事件名 配転無効仮処分申請事件
いわゆる事件名 朝日火災海上保険(木更津営業所)事件
争点
事案概要  木更津営業所から米子営業所への配転命令につき、組合内外において会社に強く対抗する姿勢をとったことに対してなされたもので、不当な動機・目的をもってなされたもので権利濫用にあたり無効とされた事例。
参照法条 労働基準法2章
民法1条3項
体系項目 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令権の限界
配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令権の濫用
裁判年月日 1992年6月23日
裁判所名 東京地
裁判形式 決定
事件番号 平成3年 (ヨ) 2315 
裁判結果 認容
出典 時報1439号151頁/労経速報1469号16頁/労働判例613号31頁
審級関係
評釈論文 水町勇一郎・ジュリスト1039号139~142頁1994年2月15日
判決理由 〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の限界〕
〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の濫用〕
 債務者会社の就業規則には会社は業務上の必要により転勤を命ずることができる旨定められており、債権者も入社に際しては、入社のうえはどこに転勤しても差し支えない旨の書面を差し入れていることが一応認められ、したがって債務者会社は業務上の必要に応じ、その裁量によって債権者の勤務場所を決定することができるものというべきであるが、それは無制限に行使できるものではなく、当該転勤命令に業務上の必要性が存しない場合または業務上の必要性があっても当該転勤命令が他の不当な動機・目的を持ってなされた場合もしくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるような場合は、当該転勤命令は権利の濫用として無効となるものというべきである。
 これを本件についてみるに、前述のように、債権者の米子営業所への本件配転命令は、債務者会社のこれまでの高齢者の人事異動からすると異例なものであり、しかも、その業務上の必要性は全く否定することはできないとしても極めて疑問であり、更にこれまでの債権者と債務者会社との前記関係からして債務者会社においては債権者を嫌悪していたことが窺われることからすると、本件債権者に対する配転命令は、債権者がこれまで債務者会社の諸方針に反対し、組合内で会社に強く対抗する姿勢を取ってきたこと及び組合の指導部を退いた後も、自らと同じ姿勢をとる者と会社との訴訟において中心となってこれを支援し、訴訟において会社を批判する証言をし、また現在も会社に対して中心となって不当労働行為救済申立てを続けている債権者を嫌悪し、これに対し不利益な取扱いをなしたものと推認することができ、したがって、債務者会社の債権者に対する本件配転命令は、不当な動機・目的をもってなされたものとして権利の濫用に該当し、無効であるというべきである。