全 情 報

ID番号 05934
事件名 賃金請求事件
いわゆる事件名 第一小型ハイヤー事件
争点
事案概要  タクシー乗務員の歩合給の計算方法につき、運賃値上げを機会に足切額と支給率を定める就業規則変更に合理性がないとした原判決が破棄・差戻しされた事例。
参照法条 労働基準法89条
労働基準法93条
体系項目 就業規則(民事) / 就業規則の一方的不利益変更 / 賃金・賞与
裁判年月日 1992年7月13日
裁判所名 最高二小
裁判形式 判決
事件番号 平成3年 (オ) 581 
裁判結果 破棄差戻
出典 時報1434号133頁/タイムズ797号42頁/裁判所時報1079号1頁/労経速報1473号10頁
審級関係 控訴審/札幌高/平 2.12.25/昭和63年(ネ)134号
評釈論文 岩佐真寿美・平成4年度主要民事判例解説〔判例タイムズ821〕338~339頁1993年9月/吉田美喜夫・民商法雑誌108巻6号930~936頁1993年9月/荒木尚志・ジュリスト1058号120~123頁1994年12月15日/山下幸司・労働判例633号6~9頁1993年10月15日/西谷敏・法律時報66巻7号94~97頁1994年6月/千葉勝美・ジュリスト1014号100~101頁1992年12月15日
判決理由 〔就業規則-就業規則の一方的不利益変更-賃金・賞与〕
 2 そこで、まず本件就業規則の変更の必要性について検討する。
 (一) 前記の事実関係によれば、被上告人ら乗務員の歩合給は、当該乗務員の運賃収入総額を基準として計算されるが、これはタクシー運賃の改定により大きく変動するものであるから、歩合給の計算方法の合意は、もともとその合意がされた時点におけるタクシー運賃を前提にしたものというべきである。また、旧計算方法を変更しないとすれば、本件運賃値上げにより確保されるべき事業者の適正利益が侵害されるおそれも生じないではなく、現に札幌市のハイヤー・タクシー業界においては、従来、運賃の値上げがあった場合には、これに対応して速やかに歩合給の計算方法を変更しているのである。
 そうすると、旧計算方法が上告会社と被上告人らとの間の労働契約の内容になり、それが本件運賃値上げによって当然に失効するものではないとしても、本件運賃値上げ後は、労使双方が、速やかに値上げ後の新運賃を前提として歩合給の計算方法につき協議をし直すことが予定されているというべきである。
 (二) 上告会社と被上告人らとの間において、歩合給の計算方法の変更を春闘以外の時期には行わないとする合理的理由も考え難い。
 (三) 歩合給の計算方法は、個々の賃金額そのものではなく、乗務員全体に共通する賃金の計算方法であるから、本来、統一的かつ画一的に処理されるべきものであり、就業規則による処理に親しむものであるが(労働基準法八九条一項二号参照)、本件においては、上告会社と新労との間では新計算方法による合意が成立し、一方、訴外組合との間では三回に及ぶ団体交渉がいずれも不調に終わっているのである。
 (四) 以上を総合すると、本件就業規則の変更の必要性はこれを肯認することができる。
 3 次に、本件就業規則の変更の内容の合理性の有無について検討する。
 (一) この点については、新計算方法に基づき支給された乗務員の賃金が全体として従前より減少する結果になっているのであれば、運賃改定を契機に一方的に賃金の切下げが行われたことになるので、本件就業規則の変更の内容の合理性は容易には認め難いが、従前より減少していなければ、それが従業員の利益をも適正に反映しているものである限り、その合理性を肯認することができるというべきである。
 したがって、本件においては、まず、新計算方法に基づき支給された賃金額とそれまで旧計算方法に基づき支給されていた賃金額とを対応して比較し、その結果前者が後者より全体として減少していないかを確定することが必要である。そして、これが減少していない場合には、それが変更後の労働強化によるものではないか、また、新計算方法における足切額の増加と支給率の減少がこれまでの計算方法の変更の例と比較し急激かつ大幅な労働条件の低下であって従業員に不測の損害を被らせるものではないかをも確認するべきである。
 このほか、新計算方法が従業員の利益をも適正に反映しているものかどうか等との関係で、上告会社が歩合給の計算方法として新計算方法を採用した理由は何か、上告会社と新労との間の団体交渉の経緯等はどうか、さらに、新計算方法は、上告会社と新労との間の団体交渉により決められたものであることから、通常は使用者と労働者の利益が調整された内容のものであるという推測が可能であるが、訴外組合との関係ではこのような推測が成り立たない事情があるかどうか等をも確定する必要がある。
 (二) 本件就業規則の変更の内容の合理性は、右の諸点についての認定判断の結果いかんにかかるから、これらの点の認定判断を怠った原判決には、就業規則に関する法令の解釈適用を誤った違法、ひいては審理不尽の違法があるというべきであって、この違法が判決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。