全 情 報

ID番号 06012
事件名 立替金等・反訴各請求事件
いわゆる事件名 第二国道病院事件
争点
事案概要  病院を経営する者(原告)が、看護婦見習いとして雇用した者が准看護婦学校を卒業と同時に退職したことを理由として、准看護婦学校入学のために原告が支払った入学金、授業料、奨学金等の返還を求めて争った事例。
参照法条 労働基準法11条
労働基準法37条
労働基準法施行規則23条
体系項目 賃金(民事) / 賃金の範囲
賃金(民事) / 割増賃金 / 支払い義務
裁判年月日 1992年7月31日
裁判所名 横浜地川崎支
裁判形式 判決
事件番号 平成1年 (ワ) 565 
平成2年 (ワ) 547 
裁判結果 棄却
出典 労働判例622号25頁
審級関係
評釈論文 岩出誠・ジュリスト1047号125~128頁1994年6月15日
判決理由 〔賃金-賃金の範囲〕
 (五) 被告は、平成元年三月三一日、右学校を卒業し、准看護婦の資格を得ると同時に、原告を退職した。
 2 右認定事実に基づいて原告が被告に支払った金員について検討するに、
 (一) 奨学手当金四万七〇〇〇円について原告代表者は貸付金である旨供述しているが、唯一の雇用条件を明らかにしている求人票には賃金の一部として記載されていること、原告は被告に対しこの点に関しなんらの説明もしていないこと、基本給が金五万円で、当時の高校卒業者の給料として著しく低額であること、更には原告は被告に対し雇用契約の内容として准看護婦学校に通学させる義務を負っていたことからすると、労働の対価である賃金の一部と認定することが相当であり、原告代表者の供述は信用することができない。
 (二) 奨学手当金一万三〇〇〇円について、原告は貸付金、被告は賃金の一部と主張しているが、賃金の一部とすると神奈川県又は川崎市から奨学金を受給している者と賃金に差異が生じ、合理性がないこと、求人票でも賃金欄の記載ではなく、補足事項欄に記載されていることからすると賃金の一部と判断することは相当ではなく、(証拠略)では税務上賃金の一部として処理されているが、このことだけをもって賃金の一部と認定することはできず、ただ原告が被告のためになした立替金であると認められるにしても求人票の記載から神奈川県又は川崎市の奨学金と同様に原告が負担する旨認められ、原告から何の説明もなかったことから被告には返還義務を負わないものと認定することが相当である。
 (三) 受験料、入学金、施設資金、教科書、体育着、実習ユニホーム代金については、求人票において入学金は原告が負担する旨記載されていること、准看護婦学校受験の具体的内容の説明が事前になされていなかったこと、受験料以外の金員は入学と同時に支払い川崎市医師会附属准看護婦学校の募集要項(〈証拠略〉)では入学時諸経費と記載されており、入学金以外の金員も入学金と同趣旨の金員と認められ、右各金員は右(二)と同様に被告に返還義務のない立替金であると認めることが相当である。
 (四) 当初の三か月間の授業料、実習教材費、設備費、積立金及び後援会費合計金六万六〇〇〇円について、被告は原告から入学金の一部の説明があった旨と主張しているが、被告本人も右金員に関して何の説明もなされなかった旨供述し、入学時に納付されたとしても、その後の通学期間も継続して被告が負担すべき義務を負い、実際支払っていたもので、入学金と同趣旨の金員とは認められず、授業料以外の金員も准看護婦学校に支払うべきもので授業料に準じるものと認められ、右立替金に関しては返還義務を免除する事実は認められない。
 (五) 制服代金及び布団代金については被告は贈与と主張するが、これを認めるに足りる証拠はなく、原告の立替金と認めることが相当で、返還義務を免除する事実は認められない。〔賃金-割増賃金-支払い義務〕
 (1) 被告は原告の病院に、昭和六二年四月一日から平成元年三月三一日までの期間、看護婦業務に従事し、通常勤務日は午後五時三〇分まで勤務し、宿直勤務の日は、午後五時三〇分よりそのまま夜勤に入り、翌日午前一〇時まで継続して勤務し、この間の休憩時間は、平均して、一時間三〇分であり、従って宿直勤務は午後一〇時から翌日の午前五時までの時間のうち休憩時間を除く五時間三〇分が賃金五割増の深夜超過労働勤務であり、残りの五時間三〇分は賃金二・五割増の超過労働であり被告は一年目に一六日、二年目に五六日の宿直勤務についている。
 (2) 他方、被告の勤務時間は、通常勤務日は午前九時から午後五時まで(但し、土曜は午前一二時まで)、勤務し、休憩時間は合計九〇分であり実働時間は六時間三〇分(土曜は三時間)、休日は、日曜・祝日すべてで、有給休暇は、一年目一四日、二年目二一日であり、一年のうち日曜・祝日合計六三日を休日、土曜日をその残りの六分の一とすれば、一か月当り、土曜日は四・二日、通常勤務日は二〇・九七日となり、若干の超過時間をみて合計は約一五二・五時間と認められ、被告の一年目の給料は一か月九万七〇〇〇円、二年目は一〇万七〇〇〇円であるから、一年目の一時間当りの賃金は約六三六円、二年目のそれは約七〇二円となる。
 (3) 従って、宿直勤務の超過労働賃金は一年目は金一五万三九一二円、二年目は金五九万四五九四円であり、合計金七四万八五〇六円となるところ、被告は原告に対し本訴において相殺で主張した金四一万二一六〇円の請求をなしうるが、原告は合計金二五万九〇〇〇円しか支払わず、被告には差額金一五万三一六〇円の請求権がある。
 (二) 原告は被告に宿直勤務一日当り金三五〇〇円支払えば正当である旨主張し、原告代表者もその旨の供述をしているが、その根拠も明確でなく、労働基準法施行規則二三条の規制の除外に当る主張、立証がなく、右主張は認めることができない。