全 情 報

ID番号 06021
事件名 障害補償給付支給決定取消請求事件
いわゆる事件名 岐阜労基署長(戸崎鉄工所)事件
争点
事案概要  業務災害に基づく尾骨骨折による手術の結果生じた疼痛についての労災保険法の障害補償の障害等級の認定(一二級の一二)が争われた事例。
参照法条 労働基準法77条
労働者災害補償保険法15条
体系項目 労災補償・労災保険 / 補償内容・保険給付 / 障害補償(給付)
裁判年月日 1992年9月14日
裁判所名 岐阜地
裁判形式 判決
事件番号 平成2年 (行ウ) 9 
裁判結果 棄却
出典 労働判例624号70頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-補償内容・保険給付-障害補償(給付)〕
 原告の労働能力については、座位作業は困難であるが、立位作業の作業能力は相当程度残存しているものというべきである。なお、原告の場合、尾骨部に圧迫等の刺激を与えさえしなければ、屈曲姿勢を保持することは可能であると認められるから、工夫次第では座位作業も不可能ではないと考えられる。
 三 そこで、次に、右認定の原告の後遺障害を前提として、それに相応する障害等級について検討する。
 まず、尾骨骨折及び骨折部位の切除については、それが、障害等級第一一級の五「せき柱に奇形(変形)を残すもの」に該当することは当事者間に争いがなく、(証拠略)によれば、同障害等級にいう「せき柱の変形」とは、エックス線写真上明らかなせき椎圧迫骨折又は脱臼が認められ、せき椎固定術後の運動可動領域が正常可動範囲の二分の一程度に達しないもの、又は、三個以上の椎弓切除術を受けたものをいうところ、前述のとおり、原告は本件事故によって、エックス線写真上明らかに尾骨を骨折し、本件手術によって骨折した尾骨の一部を三つの塊として摘出したものであるから、原告の右後遺障害は障害等級第一一級の五「せき柱に奇形(変形)を残すもの」に該当するものと認められる。
 次に、原告の尾骨部の疼痛についてであるが、右疼痛は、尾骨骨折ないし骨折部位の切除手術によって生じたものであり、しかもその範囲は尾骨部周辺の握りこぶし大の範囲に限られていること、原告は右疼痛によって椅子に座ることもあぐら座位になることもできず、立位も一時間程度しか保持できないが、それらはいずれも下肢の運動可動領域の制限によるものではなく、疼痛の増大によるものであること、右疼痛の原因は、尾骨骨折によってその近傍を通る肛門尾骨神経が損傷を受けたことによるものか、あるいは骨折治療の過程で生じた瘢痕組織に当該神経が巻き込まれたことによるものか、それとも尾骨骨折及びこれに対する尾骨切除術等により、手術創周辺の軟部組織及び切除部断端の圧迫によるものかのいずれかであると考えられるのであるから、以上の事実を総合すると、結局、原告の尾骨部に残存する疼痛は「局部の神経系統の障害」というべきものであり、「局部にがん固な神経症状を残すもの」として、障害等級第一二級の一二に該当すると考えるのが相当である。
 そして、原告の尾骨部の疼痛は、尾骨骨折ないし尾骨の切除から派生したものであるから、両者を別障害として規則一四条三項によるべきではなく、両者を包括して一個の身体障害と評価してその上位等級によることが相当であるから、結局、原告の本件後遺障害に対する障害等級は上位等級である第一一級であるというべきである。