全 情 報

ID番号 06066
事件名 賃金請求事件
いわゆる事件名 東京中央郵便局事件
争点
事案概要  郵便局に勤務する職員が事前に承認されていた年休(午後一時から三時まで)当日、妻の急病のため、一日欠務する旨の電話連絡をした後、妻の容体が落ち着いたため帰宅した長男に妻の看護を任せ、組合事務所に立ち寄ったあとに、午後四時三〇分ころ勤務する郵便局に赴き改めて当日全一日の年休を請求したことに関連して、それが年休の時季指定として認められるか否かが問題とされた事例。
参照法条 労働基準法39条4項
労働基準法39条1項
体系項目 年休(民事) / 時季変更権
年休(民事) / 時季指定権 / 指定の方法
裁判年月日 1993年1月27日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成1年 (行ウ) 40 
裁判結果 棄却(確定)
出典 時報1471号146頁/労経速報1486号15頁/労働判例628号71頁
審級関係
評釈論文 坂本宏志・法律時報67巻9号110~113頁1995年8月/渡辺章・ジュリスト1041号113~115頁1994年3月15日
判決理由 〔年休-時季指定権-指定の方法〕
 年休請求の時期及び方法に関する前記の定めは、使用者側に時季変更権を行使するか否かの判断に要する時間的な余裕を与えると同時に、職員の服務時間割を事前に変更して代替要員を確保するのを容易にすることにより、時季変更権の行使をなるべく差し控えられるようにする趣旨によるものであり、また、時季指定権行使の存否、時期及びその意思表示の内容を書面によって明確にすることにより多数の労働者の年休の円満な管理、運営を図る趣旨によるものであって、しかも、前日の正午までに書面の提出を要求しても労働者に過大な負担を課すものではなく、それにより時季指定権の行使が著しく困難になるというものではないと認められるから、年休の時季指定権の行使時期、方法の制限として合理的なものということができ、この見地から労使間の合意によって労働協約の内容とされているものとして首肯することができる。したがって、このような事前請求の定めは、同項に違反するものではなく、有効なものというべきである。
〔年休-時季変更権〕
 当日の就業開始時刻までに年休請求書を提出できなかった場合は、もはや事情の如何を問わず年休の権利行使としては一切認められないとすることは、前記のとおり、許されないものと考えられる。職員が突発欠務についてあらかじめ書面をもって年休の時季指定をすることができなかった場合は、事前請求の定めに反して不適法であることになるが、事前に書面で請求できなかったことにやむを得ない事情があり、その事情が止んだ後に速やかに書面でされた時季指定に対しては、使用者はこれを有効なものとして取り扱うよう配慮すべきものとすることは、労働基準法が労働者に年休を権利として与えた趣旨に沿い、かつ、事後請求に関する郵政省就業規則、勤務時間規定及び年休協約付属覚書の文言に合致し、また、これによって事前請求の定めを設けた目的に反することになるものでもない。それゆえ、このような場合の年休請求については、時季変更権を行使できる要件が存在し、かつ、その行使がない限り、これを否定することはできないものというべきである。〔中略〕
 (一) 本来、時季変更権の行使は、労働者の対応に影響を与えるものであるから、年休が生じる前に行使されるべきであるが、本件のように事後的に時季指定権を行使されたときは、あらかじめ労働者に時季変更権の行使の有無を知らせる意義がそれほど大きくないから、事後に合理的期間内にされていれば足りると解すべきである。〔中略〕
 5 突発的なやむをえない事情により当日の就業開始時刻までに書面で時季指定をすることができなかった場合に、使用者が適法な時季変更権を行使できる場合であっても、使用者が労働者の事情を考慮して、時季変更権の行使を控えることも許されるが、それを行使するか否かは、年休制度の趣旨に反しない範囲で使用者の裁量に委ねられているというべきである。