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ID番号 06200
事件名 従業員地位確認等請求事件
いわゆる事件名 岩井金属工業事件
争点
事案概要  会社の経営権を譲り受けた新経営者が、組合委員長および青年部長を掲示板撤去の業務命令に従わなかった社長に対する抗議行動のなかで、社長に罵声を浴びせるなどの行為を行ったとして解雇したため、右両名が解雇の効力を争った事例。
参照法条 労働基準法20条1項
労働基準法89条1項3号
労働基準法11条
労働基準法3章
労働組合法7条1号
体系項目 解雇(民事) / 解雇事由 / 業務妨害
解雇(民事) / 解雇事由 / 違法争議行為・組合活動
賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / 無効な解雇と賃金請求権
裁判年月日 1993年8月30日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成3年 (ワ) 4504 
裁判結果 一部認容(控訴)
出典 労働判例642号34頁/労経速報1522号7頁
審級関係 控訴審/06396/大阪高/平 6. 9.27/平成5年(ネ)2324号
評釈論文
判決理由 〔解雇-解雇事由-業務妨害〕
 右認定の事実によると、原告X1ら組合員は、被告会社の守衛の許可を得て被告会社の工場内に立ち入ったのであり、不法に立ち入ったとはいえない。また、この立入りが被告会社の業務の遂行を妨害するとか、被告会社に損害を与えるとか、業務の運営に支障を及ぼすものであるということはできない。さらに、前記認定のとおり、被告会社と組合との間には、就業時間外に会社施設内で組合活動をすることを保障する旨の労働協約が締結されており、原告X1らは、被告会社によって破壊された組合事務所を補修するという組合活動のために、就業時間外である日曜日に被告会社の工場内に立ち入ったのであるから、原告X1らの行為は、労働協約上許された行為であるということができる。
 よって、被告会社主張の右事実は解雇事由に当たらない。
〔解雇-解雇事由-違法争議行為・組合活動〕
 このような経緯の結果、一〇〇名を超えていた組合員が大量に脱退し、組合員数が一〇数名にまで激減したが、原告X1は、組合を脱退することなく組合活動を継続していたところ、一二月二八日同人に対する本件解雇の意思表示がされたことなどの経緯、及び被告会社の主張する原告両名に対する解雇事由が認められないことを考え併せると、原告両名に対する本件各解雇は、被告会社A社長において、組合を嫌悪し、原告両名が組合員として正当な組合活動をしたことの故に不利益な取扱をし、また、組合に対する支配介入をする意図で行ったものと認めることができるから、原告両名に対する本件各解雇の意思表示は不当労働行為を構成し、無効であるというべきである。
〔賃金-賃金請求権の発生-無効な解雇と賃金請求権〕
 原告らは、被告会社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあり、被告会社は、原告らの就労を拒否しているから、原告らは、被告会社に対して賃金請求権を有するところ、原告X2の本件解雇前三か月間の賃金額は、一か月当たり一七万四四一三円を下らず、原告X1の右同賃金額は一か月当たり一八万八〇四六円を下らないので、原告らは、一か月当たり右の各金額の限度で、被告会社に対する賃金請求権を有するものというべきである。
 なお、原告らは、被告会社では毎年四月に昇給が実施されていたので、各原告について、解雇の年である平成二年四月分以降の毎月の賃金の平均額が支払われるべきである旨主張するが、原告らに支払われていた賃金額は、月によってかなりの変動があることを考慮すると、平成二年四月分以降の毎月の賃金の平均額によってその賃金を算定することに合理性があるとは必ずしもいえず、むしろ、解雇時の直前三か月間に支払われた賃金の平均額によって算定することに合理性があるというべきである。