全 情 報

ID番号 06289
事件名 給料請求控訴事件
いわゆる事件名 アサヒ三教事件
争点
事案概要  社長による従業員への離職票の交付が解雇の意思表示であるとされ、従業員は退職願いを提出しているわけではないので、解雇予告手当請求権を有するとされた事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法20条
体系項目 解雇(民事) / 解雇予告 / 解雇予告の方法
裁判年月日 1994年6月30日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成5年 (レ) 286 
裁判結果 棄却
出典 労経速報1535号3頁/労働判例661号18頁
審級関係 一審/新宿簡/平 5.12. 1/平成5年(ハ)6108号
評釈論文
判決理由 〔解雇-解雇予告-解雇予告の方法〕
 2 被控訴人の離職票及び離職証明書(事業主控)には、離職日については被控訴人の主張とは異なる同年八月二〇日との記載があるが、離職理由の欄に「業務縮小による解雇」と記載され、離職票交付日は同月三一日と記載されていること、
 3 被控訴人の控訴人会社におけるタイム・カードによると、被控訴人の同月の勤務状況については、同月一九日までは通常の出勤状況ではあるが、同月二〇日から二三日までは特別有給休暇との記載があり、またその後同月二七日、三〇日、三一日には出勤したものの、同年九月一日以降被控訴人は控訴人会社で稼働していないこと、
 以上の事実が認められるのであり、前記被控訴人の供述は、右事実に合致し、信用性を有するところ、被控訴人に離職票を交付するAの前記の行為は、被控訴人に対する解雇の意思表示があったことを裏付けるに足りるものと評価することができる。これらを総合すれば、控訴人会社は、平成五年九月一日、被控訴人を即時解雇する旨の意思表示をしたことを認めることができ、これに反する控訴人会社代表者本人尋問の結果は信用することができず、その他右認定を覆すに足りる証拠はない。
 なお、控訴人会社は、被控訴人が、自らの希望で、同年八月二〇日から同月三一日までの間はアルバイトとして稼働していた旨主張するが、仮に被控訴人が経営不振に陥った控訴人会社に見切りをつけて自主的に退職したとするなら、その後、正社員より勤務条件が不利となるアルバイトとしてあえて控訴人会社において勤務を継続したというのは不自然である。この点控訴人会社は、一旦解雇名目で退職することで、早期に雇用保険金を受給し、アルバイト料との二重取りを意図したものであるとも主張するが、被控訴人に離職票が交付されたのは、離職日として記載された八月二〇日から一〇日以上経過した同月三一日であり、被控訴人が控訴人会社で勤務をしていたのも同日までであることに照らせば、右主張も失当というべきである。
 また、控訴人会社は、被控訴人の離職証明書用紙の離職理由の記載は控訴人会社の関知しないところで作成されたものであると主張し、被控訴人以外の従業員中にも、自ら退職届を提出したり、自己都合退職であることを自認しながら、離職証明書中の離職理由には「業務縮小による解雇」との記載のある者がいるとして、これに沿う証拠(〈証拠略〉)を提出するが、被控訴人自身は自己都合退職を自認するものではなく、退職届けを提出した事実も認められないのであるから、(〈証拠略〉)の存在が前記認定を左右するものではなく、他に、被控訴人の離職証明書用紙の離職理由の記載が控訴人会社の管理外でなされたことを窺わせるに足りる証拠はない。
 以上からすれば、被控訴人は、控訴人会社に対し、平成五年九月一日付け解雇に基づき、前記一5のとおり、解雇予告手当として二三万八九八一円の支払請求権を有するものと認められる。