全 情 報

ID番号 06325
事件名 労働者災害補償保険保険給付不支給決定取消請求事件
いわゆる事件名 茨木労基署長(関西新幹線整備)事件
争点
事案概要  新幹線の車両内で清掃作業に従事していた労働者の作業中に発症した脳出血による死亡につき、業務起因性の有無が争われた事例。
参照法条 労働者災害補償保険法7条1項1号
労働者災害補償保険法16条の2
労働者災害補償保険法17条
労働基準法施行規則別表1の2第9号
体系項目 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 脳・心疾患等
労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 業務起因性
裁判年月日 1992年3月23日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 昭和63年 (行ウ) 72 
裁判結果 棄却
出典 労働判例617号62頁
審級関係 控訴審/06259/大阪高/平 6. 3.18/平成4年(行コ)10号
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-業務起因性〕
 右「業務上死亡した場合」とは業務と死亡との間に相当因果関係(業務起因性)が存すること、即ち、医学経験則上、業務が死亡(死亡の原因となった疾病)の相対的に有力な原因と認められることをいう(雇主の健康管理義務違反の有無は右判断においては考慮すべき事情にあたらない)。〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-脳・心疾患等〕
 医学経験則上、業務が急激な血圧変動等を招く過重負荷となり、自然経過を超えて本件疾病を発症させた場合(特定の業務との関連性は認められていない)、業務は右発症の相対的に有力な原因であると認めるべきである。
3 業務による過重負荷の典型例は業務に関連した異常な出来事への遭遇や日常業務に比較して特に過重な業務に就労したことであり、この場合、負荷から発症まで、通常は二四時間以内、稀には数日を経過する例もある。医学経験則上、通常の業務によって受ける負荷は自然経過の範囲内と考えられ、慢性疲労による継続的精神負荷と本件疾病発症との関連は否定できないが、医学上は未解明である。しかし、業務が右発症の相対的に有力な原因であるか否かの判断は、右に尽きるものではなく、業務の内容、性質、就労状況、基礎疾病の程度、生活態度その他諸般の事情を総合的に勘案してなすべきである。〔中略〕
 作業の際の寒冷負荷や冷水負荷(以下、寒冷負荷等という)が昇の血圧に作用したことは認められるが、その場合でも高血圧が持続するものではないし、発症三日前の一二月一〇日の外気温も発症当日と同様に低かったが(〈証拠略〉によると午前〇時の気温は発症日より更に約一度低かった)、Aは徹夜勤に従事し、無事勤務を終えていることが認められるから、右当日の寒冷負荷等がAの高血圧症を自然経過を超えて増悪させたということはできない(発症当日、Aが寒冷負荷等を受けた頻度、時間が通常よりも顕著であったと認めるに足りる証拠もない)。また、Aが新幹線のモーター音に起因する騒音曝露やドアの開閉試験による車内圧の変動によってある程度の精神的ストレスを受けていたことは認められるが、前記認定のAの就労状況等に照らすと、これがAの高血圧症を自然経過を超えて増悪させたものと認めることは困難である。
2 他方、Aは、同五一年当時既に高血圧症の診断を受けたにもかかわらず、以後約三年間血圧降下剤の投与を受けたのみで高血圧症の治療を中止し、却って、一日約四〇本も喫煙し、食事療法も行なわなかったこと、更に、Aは訴外会社採用当時、血圧は一六八-七八の高数値を示し、心肥大も生じていたが、高血圧症の治療を継続していないこと等に照らすと、本件疾病は同人の長年にわたる高血圧症が自然経過により増悪し、発症したことも優に考えられる。