全 情 報

ID番号 06347
事件名 賃金請求事件
いわゆる事件名 JR西日本事件
争点
事案概要  JR西日本の労働者が、国労のバッジを着用したこと等を理由に夏季一時金の減額査定を受けたとして夏季一時金請求権又は不法行為による損害賠償請求権に基づく金員を請求した事例。
参照法条 労働基準法11条
労働基準法3章
労働基準法2章
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 債務の本旨に従った労務の提供
賃金(民事) / 賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額
裁判年月日 1993年10月12日
裁判所名 広島地
裁判形式 判決
事件番号 昭和62年 (ワ) 1399 
裁判結果 一部認容,一部棄却(控訴)
出典 タイムズ851号201頁/労働判例643号19頁
審級関係
評釈論文 山川隆一・平成6年度主要民事判例解説〔判例タイムズ臨時増刊882〕336~337頁1995年9月
判決理由 〔賃金-賃金請求権と考課査定・昇給昇格・賃金の減額〕
本件夏季手当など一時金の支給に際して行われる使用者による労働者の勤務成績の査定は、使用者の裁量的判断に委ねられるものであるが、これらが合理性を欠く場合には裁量の範囲を逸脱したものとなるところ、勤務成績が裁量の範囲を逸脱して不当に低く査定された場合には、当該一時金の支給額につき具体的な算定方法が定められている限り、当該労働者は、使用者に対し、右の算定方法によって算定した金額による一時金の支払請求権を有するものと解される。
 また、使用者の行為が不当労働行為に該当する場合には、特段の事由のない限り、当該行為は不法行為としての違法性を肯定されるものと解される。
〔労働契約-労働契約上の権利義務-債務の本旨に従った労務の提供〕
一般に、労働者は、労働契約を締結することにより、所定の勤務時間中は使用者の指揮命令に服して稼働すべき職務専念義務を負うから、勤務時間中の組合活動は、原則として正当性を認められないというべきであり、前記就業規則二三条が勤務時間中の組合活動を原則として禁止している理由もこの点に存するものとみられる。しかし、少なくとも被告のような私企業における労働者の職務専念義務は、労働者がその労働契約に基づいて行うべき労働を誠実に履行する義務と解すべきであり、労働者がその精神的・肉体的活動のすべてを職務遂行に集中すべき義務とまでは解すべきでないから、本来の職務以外の行為であっても、労働を誠実に履行すべき義務と支障なく両立して使用者の業務を具体的に阻害することのない行為については、必ずしも職務専念義務に違反するものではないと解するのが相当である。
 しかして、弁論の全趣旨によれば、国労の組合バッジは、縦約一・一センチメートル、横約一・三センチメートルの大きさであり、その表面には、黒地にレールマークが描かれNRUとローマ字が表示されていることが認められる。すると、右組合バッジは、いずれも小さく目立たないものであり、また、具体的な主義主張が表示されているものでもないから、その着用行為は、原告らの労働を誠実に履行すべき義務と支障なく両立し、被告の業務を具体的に阻害することのない行為であって、原告らの職務専念義務に違背するものではなく、更に、就業規則二三条の趣旨は前記のとおりであるから、実質的には同条が禁止する勤務時間中の組合活動にも該当しないというべきである。