全 情 報

ID番号 06387
事件名 遺族補償等不支給決定取消請求事件
いわゆる事件名 西野田労基署長(淀川製鋼所)事件
争点
事案概要  モータープールの警備管理業務に従事していた労働者(保安係)の急性心筋梗塞によるショック死につき、業務起因性が争われた事例。
参照法条 労働者災害補償保険法7条1項1号
労働基準法79条
労働基準法80条
体系項目 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 脳・心疾患等
労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 業務起因性
裁判年月日 1994年9月2日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成3年 (行ウ) 57 
裁判結果 棄却
出典 労働判例668号15頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-業務起因性〕
 労災保険法に基づく遺族補償給付、葬祭料が支給されるためには、労働者が業務上死亡すること、すなわち、その死亡が業務に起因すること(業務起因性)が必要であり(労災保険法一二条の八、労働基準法七九条、八〇条)、この業務起因性が認められるためには、死亡と業務との間に相当因果関係が存在することが認められなければならない(最高裁昭和五一年(行ツ)第一一号同年一一月一二日第二小法廷判決・裁判集民事一一九号一八九号(ママ)参照)。
〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-脳・心疾患等〕
 A製鋼大阪工場において、本件警備管理業務は、肉体的及び精神的に最も負荷の軽い職場と考えられており、五五歳以上の高齢者又は健康上やや弱いもののなかから要員を配置していること、亡Bは、定年に達する前に自ら望んで本件警備管理業務に従事し、死亡までに約一年八か月右業務に従事し、その業務内容に精通し、労働環境にも慣れていたことが認められ、以上の事実を総合すると、本件警備管理業務自体、心筋梗塞を発症せしめる程の肉体的疲労や精神的緊張(ストレス)をもたらす過酷な業務であると認めることはできない。
 そして、右認定の事実によると、亡Bが、昭和五九年四月(本件心筋梗塞発症の約五か月前)以降及び本件心筋梗塞発症前一週間に従事した本件警備管理業務の内容に限ってみても、右認定にかかる通常時の本件警備管理業務の内容に比し、肉体的疲労及び精神的緊張を含め右内容に特に加重されたところはなく、右内容と同様であったと認められる。また、本件心筋梗塞発症直前の三昼夜連続勤務にしても通常時の勤務内容に特に加重されたところはないというべきである。〔中略〕
 亡Bについて心筋梗塞を発症せしめる冠危険因子の存在を検討するに、右事実によれば、同人は、本件心筋梗塞発症当時五九歳であってかなりの高齢であったこと、境界域高血圧であり、煙草を一日に約二〇本吸っていたこと、亡Bは、一日に三ないし五合程度を飲酒し、C病院のカルテ上では「アルコール中毒」と記載されていることからすると、適量を超えて飲酒する傾向にあったことが認められ、右の事実からすると、亡Bは、本件心筋梗塞発症当時、高年齢、高血圧、喫煙、過度の飲酒を原因とし、自然的経過を経て心筋梗塞が発症したとしても不合理なところはなかったものと認められる。
 4 したがって、以上の事実と本件警備管理業務と本件心筋梗塞発症との間の因果関係を否定する前記各医師の意見を総合すると、亡Bの従事した本件警備管理業務は、本件心筋梗塞を発生させるに足りる過労ないしストレスを生じさせる業務と認めることはできないし、また、亡Bには、高年齢、高血圧、喫煙、過度の飲酒等、多くの重大な冠危険因子が存在するから、本件警備管理業務と本件心筋梗塞との間には相当因果関係があるとはいえず、もって業務と死亡との間にもまた相当因果関係は認められない。