全 情 報

ID番号 06404
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 トーコロ事件
争点
事案概要  残業命令拒否を理由とする解雇につき、届出られた三六協定は会社の親睦団体が当事者となったもので、労働者の自主的団体とはいえず、右団体の役員が三六協定の締結をしたもので適法、有効なものとはいえないから、残業拒否を理由とする解雇が無効とされた事例。
 会社の誹謗・中傷をしたとしてなされた解雇につき、職場の秩序を乱したとまではいえないとして、解雇理由には該当しないとされた事例。
 自己評価の人事考課を拒否したことを理由とする解雇につき、賞与についてすでにマイナス査定を受けており 解雇理由とすることは権利の濫用に当たるとされた事例。
 協調性の欠如を理由とする解雇につき、本来の業務以外の業務に対する非協力的態度をもって解雇理由とすることはできないとされた事例。
 職務能力の不足を理由とする解雇につき、上司の評価が一致しておらず、解雇理由とすることはできないとされた事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法36条
労働基準法89条1項9号
民法1条3項
体系項目 労働時間(民事) / 時間外・休日労働 / 時間外・休日労働の義務
労働時間(民事) / 三六協定 / 締結当事者
解雇(民事) / 解雇事由 / 職務能力・技量
解雇(民事) / 解雇事由 / 業務妨害
解雇(民事) / 解雇事由 / 業務命令違反
解雇(民事) / 解雇事由 / 協調性の欠如
裁判年月日 1994年10月25日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成4年 (ワ) 22617 
裁判結果 一部認容,一部棄却(控訴)
出典 労働民例集45巻5-6号369頁/労経速報1546号3頁/労働判例662号43頁
審級関係
評釈論文 倉田聡・法律時報68巻1号80~83頁1996年1月
判決理由 〔労働時間-時間外・休日労働-時間外・休日労働の義務〕
〔労働時間-三六協定-締結当事者〕
〔解雇-解雇事由-業務命令違反〕
 まず被告の右残業延長要請及び本件残業命令が適法になされたものであるかどうかについてみると、被告会社においては、友の会の役員であるAが「労働者の過半数を代表する者」として署名・捺印した本件三六協定が作成され、労働基準監督署長に届け出られていることは前記のとおりである。しかし、友の会は、役員を含めた被告会社の全従業員によって構成され、「会員相互の親睦と生活の向上、福利の増進を計り、融和団結の実をあげる」(規約二条)ことを目的とする親睦団体であって、労働者の自主的団体とは認めがたく、その役員は会員の選挙によって選出されるが(規約六条)、右選挙をもって、三六協定を締結する労働者代表を選出する手続と認めることもできず、本件三六協定は、親睦団体の代表者が自動的に労働者代表となって締結されたものというほかなく、作成手続において適法・有効なものとはいいがたい。
 そうすると、本件三六協定が無効である以上、原告に時間外労働をする義務はなく、原告が残業を拒否し、あるいは残業を中止すべき旨の主張をしたからといって、懲戒解雇事由に当たるとすることはできない。
〔解雇-解雇事由-業務妨害〕
2 しかし、本件手紙の内容は、被告会社における労働基準法違反の労働の実態について、原告の意見を表明し、従業員らの意識を喚起する目的に出たものであり、その内容は誇張に過ぎる部分もあるが、全く事実に基づかない誹謗・中傷であるということはできない。また右手紙は、社員らが一丸となって、残業をもいとわず、納期までに卒業アルバムを制作することを誇りとする被告会社の社風に一石を投じるものではあるが、原告の目的は、被告会社に労基法を遵守させ、職場の労働環境を改善しようとするところにあったと認められ、良好な職場環境を破壊しようとしたというのは、被告会社の一面的見方というほかない。
 そして、本件手紙を受け取ったことや原告がBに架電したことにより、従業員らが恐怖心を生じたなどという事実も認められない。
3 したがって、本件手紙の送付や女子従業員に対する架電の事実をもって、「職場の秩序を乱した」ということはできない。
〔解雇-解雇事由-業務命令違反〕
 被告会社においては、従業員らの作業能率向上の意欲を高めるとともに、賞与査定の参考とするため、自らに自己評価をさせる人事考課制度をとっていると認められるところ、原告が右のとおり自己評価することを拒否したのは、被告会社の「指示命令に違反し」た(就業規則四一条三号)ものというべきである。
 しかしながら、原告が指摘する人事考課表中の「工夫・改善」の項目をみると、考課基準として、「不足(設備、人手共)状態の中で、どのようにしたらより良い状態にもっていけるか、常に作業効率を考え、他部所の事も考え、最善の方法をとっている(評価点一〇点)。不足状態を認識し、その中でより良い方法をとるよう心がけている(同七点)。自分自身の与えられた仕事の範囲内では、工夫、改善を心がけている(同五点)。従来通りの方法以外やろうとしない(同三点)。不足の事で不平ばかりいって、まわりにも悪影響を与えている(同一点)。」と記載され、あたかも現状の設備、人手は所与のものであって、その改善を求めることは良くないことであるかのような基準の設定の仕方がされており、人員増を図ることにより、残業時間を減らすべきであるとの意見の持ち主である原告にとって、承服しがたい内容のものであったと考えられること、原告は、人事考課の自己評価を拒否することにより、平成三年の年末賞与においてマイナス三万円の査定をされており、これが正規の懲戒処分には当たらないとしても、既に相応の不利益処分を受けていると考えられることからすれば、右事実をもって、懲戒解雇事由とすることは解雇権の濫用に当たるというべきである。
〔解雇-解雇事由-協調性の欠如〕
 原告は、平成四年一月三一日、本件残業命令が発せられた頃、C営業部長やD主任は、組版業務の最繁忙時期は過ぎかかっており、制作課・写真焼きグループの一担当業務である校正業務にノルマの遅れが生じていたことから、原告を同業務に従事させようとして、同年二月三日以降一週間、午後九時までの残業を命じたものと認められる。
 そして、原告は、同年一月一一日や同月二〇日の職場集会において、「自分の仕事が終わってしまえば他の従業員らが残業していても、残業してまで手伝いたくない。」などと発言しており、互いに協力し合って繁忙時期を乗り切るべきであると考えている他の従業員らからは、必ずしも好感情を抱かれてはいなかった。
2 しかるところ、本件残業命令については、前記認定のとおり残業を命ずること自体適法になしえないものであるうえ、原告が従事すべき業務の内容が特定されておらず、C営業部長やD主任の意図が、的確に原告に対して伝えられたかどうか疑問があり、所定就業時間内においても、D主任らは、平成四年二月四日以降、原告に対し、校正等の業務に就くことを指示した事実も認めるに足りない。なお、被告会社は、アルバイトを二名雇用し、原告以外の従業員らが協力する等して、前記ノルマの遅れを取り戻したことが認められる。
 そうすると、原告の本来の業務以外の業務に対する非協力的態度をもって、「就業状況が著しく不良で就業に適しない」とまで認めることはできない。
〔解雇-解雇事由-職務能力・技量〕
 しかし、原告と、作業年度・作業環境や個人的資質・適性の異なるEのC作業組版の処理ページ数のみを単純に比較して、原告の職務能力が劣っていたと断定することはできないし、証拠(乙一五、証人大森順一、原告本人)によれば、原告の平成三年九月ないし一一月にかけてのC作業組版の処理ページ数は、右D証言どおりであったと認められるが、同年度の組版のノルマに遅れは生じておらず、むしろ平成三年一〇月半ば頃行われた組版部署の会議では、組版の作業のノルマが一四〇パーセント達成されており、逆に問題となるような状況である旨報告されたこと、原告本人尋問の結果に照らし、D主任が原告担当の仕事を代わって行った事実を認めるに足りないこと、平成三年末の人事考課において、D主任は、「納期」の項目に関し、「いわれた時期までには、いつも仕上げている(七点)」(但し、C営業部長は、「まあ何とか、納期には間に合わしている(五点)」、「利潤・もうけ」の項目に関し、「仕事量、稼ぎは良いが、質という点が欠けている(七点)」(但し、C営業部長は、「仕事量、質、稼ぎ共今一歩の努力が必要である(五点)」との評価をしており、直属の上司であるD主任の評価の方が客観性が高いと見るべきであるところ、同人は、原告の職務能力について決して悪い評価をしていなかったことが認められる。
 そうすると、原告について、「就業状況が著しく不良で就業に適しない」と認めることはできない。